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「ところでお茶会どうする?」
「フレムさんは少し休んだ方が……」
「気持ちは有り難いけど、寝て起きたら仕事が舞い込みそうだし……。あっ、お菓子は非常食で賄っても良いかな?」
どのみち長い時間起きていられる自信がなかった俺は、眠気覚ましなればと三日前に持たせて貰ったリュックからビスケットを一袋取り出した。
すると会話を聞いていたグレイは、龍碑と竜祈の相手をしていた手を一旦止めて、何処か心配そうに尋ねてくる。
「仕事を終わらせて来たんじゃないの?」
「ひとまず目の前の問題を片付けて、面倒な報告はストームとウォームに丸投げしてきただけだよ。それに言い出しっぺが、何時までも休んでたら疑われるでしょ?」
「そうかもしれないけど、お茶会とは別に体を休めないと」
「休めるよ。助手であるグレイが、俺の寝床と今後のスケジュールを把握してくれたらだけどね」
言っとくが、これは意地悪ではない。
現在ベッドをラーリングに譲ってる俺は、三日前から寝袋生活。おまけに今後のスケジュール把握のために歩き回ると、それが仇となって仕事に巻き込まれる可能性が高いから頼っているのだ。
「グレイさんの腕の見せ所ですね」
「それとも友達として、お茶会に誘うべきだった?」
「いいや。ここは助手として、フレムの代わりに頑張ってくるよ。任せといて♪」
しかし、何を心配してか。立ち去り際に黙って見送るラーリングに向かって、グレイは1つ頼み事をする。
「ラーリングさん、暫くフレムを見張っといて下さいね」
「うおい。どういう意味だよ、それ」
「な・い・しょ♪ 夕食時にまた来るんで」
恐らく無茶なことをさせないためのお目付け役のつもりなんだろうけど、頼まれたラーリングは親指を立てて嬉しそうだし……。
鳳炎はフォローも突っ込みもせず、俺達のやり取りを楽しそうに見守った後、お湯の準備を始めた。
「ったく。どんな話をしたら、短時間で意気投合するんだろ?」
不思議に思うけど、小さく笑う鳳炎と目を合わさないラーリングの様子からして俺の話題なんだろう。それにラーリング対して、グレイがタメ口じゃなかったのも気になるところだ。
「どう言う設定で話を進めたの?」
「さすがに気になりますか」
「スフォームの事があるからね」
湯沸し器はないので、魔法で器用に飲み水を湯へと変えた鳳炎が質問に応じたが、答えは本人に聞いてくれとアイコンタクトされたので。ベッドから半身を起こしたまま動こうとしないラーリングに目をやると、申し訳なさそうに答える。
「身体の弱い弟って事にしました」
「なるほど。それでラーリングには、さん付けなんだ」
俺だって、社長の弟と知れば呼び捨てにする勇気はない。つまりラーリングを呼び捨て出来るのは、記憶が多少なりとも戻った証でもあった。
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