第71話/月の出

6/11
前へ
/117ページ
次へ
「あ、あのっ、他に理由は?」 「そう言われても……。ラーリングは、幽閉されるのと利用されるの。どっちの方がマシだと思う?」  何を指して言ってるのかは言わないが、施設に就職を決めた時の一番の理由はそこにある。言葉(ワード)としては、どちらも願い下げと思うはずだ。 「ましてや情報を制限され、約束した相手に会えないとなると、ある程度のリスクで得られる自由の方が魅力的に感じるでしょ」 「だから施設に就職を?」 「逆に魔法が使えなくて、全く記憶を思い出すような事がなければ、また違った答えを出してると思うよ」  要するに、あくまで自分都合の決断。  それも魔法が使えるからと、いい気になってるところがあると我ながら分析している。 「じゃあ魔石に携わる職に就いたのは?」 「それこそ事の成り行きだよ。昔の俺だったら、また違った選択もあったかもしれないけど。その場合、WPの差し金確定だからね」  記憶が曖昧とは言え、夢で見たラーリングとの出会いが本当なら尚更だ。 「……フレムさん、記憶が……」 「だからどんな結果でも後悔しないよう、いろんな可能性とデメリットを天秤にかけて此処にいるんだ。故郷を知る鳳炎には悪いけど、ラーリング達の事が気になったしね」 「おや。そんな事気にされなくても、私は御主人の傍にいられるだけで幸せですよ」  ーーげふっ!!(吐血)     美形(イケメン)の愛が重い!ーー  表情が分かり難い(ドラゴン)の姿であれば、軽く受け流す事が出来るけど……。  アニメでしか聞いた事がない歯が浮くような台詞に、思わず口にした紅茶を吹きそうになって咳き込んでしまった。 「だ、大丈夫ですか? フレムさん」 「ご、ゴメン。思わぬ告白(ラブコール)に受け身が取れなかったわ」  言った本人は、俺の反応を見て嬉しそうだけど……。今は男だった記憶より、女だった記憶の方が強いから止めてほしい。 「人前だと反応に困りますしね」 「だよね。ラーリングも経験があるの?」 「はい。〔此の世界が滅んでも、お前が生きてさえいればそれでいい〕とか真顔で言われた時は、さすがに殴りたくなりましたよ」  ーー人前とかの問題じゃなかったーー  それもラーリングに一途なスフォームの発言だとしたら、本気で実行しそうで怖い。 「でも今回のような事がなければ、そんな事言わなくなるんじゃないかな」 「そうでしょうか」 「だってラーリングが健康で元気だったら、そんな事する必要がなくなるし、何かと協力してくれるようになると思うよ」  ーー過保護な性格は、      変わらないだろうけど……ーー  それでも今の状態では、告白通りのことを仕出かしそうなので、ラーリングには対策してもらいたいというのが本音だ。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加