第71話/月の出

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「ラーリング。俺の魔力の所為かもしれないから、何か得意な魔法を見せてくれない?」  もしもの可能性を含めて、脳裏に過った嫌な予感を振り払うように俺が提案すると、ラーリングは「それじゃあ」と言って腰を上げて鳳炎に空いたコップがないか尋ねた後、受け取ったガラスコップに水道水をある程度まで注いで戻ってきた。 「何を見せてくれるの?」 「〈聖夜の水〉の生成です」 「生成出来る物なのですか?」  ーーと、これは鳳炎。  俺は、その物を知らないので驚きようがないのだが、ラーリングは受けた質問に対して「はい」と肯定した後に思い出を語る。 「昔フレムさんによく頼まれていた品物で。在庫がなくなると、生活費の足しにと買いとってくれてました」 「当時どれぐらい生成出来たの?」 「濃度にもよりますが、一般的に売られてる濃度なら5分もかかりません。ただフレムさんの好みに合わせると、1日500cc生成出来れば上出来だと言われてました」  俺からの質問にさらりと当たり前のように語るラーリングだが、話を聞いた鳳炎はなんか苦笑いしてるし、昔の記憶がなくても生活費レベルの金で買えないものだと分かって頭がいたいのですが……。ラーリングはそんな俺達に構わず、コップに両手を翳して生成を始めた。 「見た目でわかるもの?」  生成から1分程して尋ねてみると、ラーリングは静かに首を横に振り、鳳炎が代わりに答えてくれる。 「一般的によく知られている〈聖陽の水〉と同じ、無色透明の聖水となりますので。飲んでみないと分からない物です」 「味が違うってこと?」 「いえ。効果が違うので、舌先で感じるものが違うんです。例えば、遺体が何かの拍子でゾンビになってしまったとして。再び人間の御遺体に戻すのが聖夜の水。逆にゾンビとして殺してしまうのが聖陽の水となります」  つまり、ゾンビとなってしまったを排除するのが聖夜の水で。ゾンビそのものを排除するのが聖陽の水のようだ。 「性能としては、聖夜の水が上ってこと?」 「そうですね。何より生成出来る条件が厳しいので、奇跡の聖水とも呼ばれてるぐらい希少な代物です」 「へ~……」  それをラーリングは自力で生成出来るのだから、まさに〈金の卵を産む雌鳥〉である。 (因みにどのくらい時間がかかると思う?)  こっから先は、ラーリングのプレッシャーになりかねないのでテレパシーに移行。鳳炎も生成に集中するラーリングの邪魔にならぬよう人型から小型ドラゴンへ姿を変えると、俺の傍に寄ってきてからテレパシーを返す。 (ブランクの年数にもよりますが、当時の10倍は時間がかかるかもしれません) (ラーリングの魔力を月に例えたら、厚い雨雲に隠れた状態だもんね)  
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