第71話/月の出

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 恐らく初見の相手からすれば、ラーリングの皮を被った魔族にしか見えない事だろう。  WPと会わせる前に気付いて良かった。  暫くして組んだ両腕を枕代わりにすると、時折居眠りをすること2回。脳内にコポコポっと、湧水のイメージが浮かんだところでラーリングに尋ねる。 「出来た?」 「は、はい。自分で飲んで確かめますね」  結局どのくらいの時間を要したか分からないけど、事前に聞いてた通りの無色透明の液体というか。水道水と天然水を目で見分けるぐらいのレベルの違いのため、出来の良さすら分からず……。成り行きを黙って見守っていると、突然ラーリングが盛大に()せて驚いた。 「だ、大丈夫?!」  考えてみれば、ラーリングは魔族であるスフォームを宿してるのだから聖水はNGのはずなのに、自ら飲んで確かめるとか自殺行為ではなかろうか。慌てて駆け寄ると、ラーリングは咳き込みながら「すみません」と謝罪して息を整えた。 「いや、止めなかった俺も悪いんだし」 「いえ。自分の体質が極端なことになってるとは思ってもみなくて……」 「極端?」 「実は魔族であるスフォームを宿してることから、誤解されがちなんですけど……。月の民は、どちらかというと〈天に導かれし者〉の気質なんです。でないと、生成出来ないものですから」  ーーそれもそうかーー  〈聖夜の聖水〉の効果は、浄化。  当然ながら、〈魔に魅いられし者〉と判定された者には作り出せない代物である。 「じゃあ何で()せたの?」 「体内に魔毒要素があると、浄化する代わりに炭酸を強く感じる性質があるので」 「ビールのような味でもしましたか?」  そう言って原因が分かっている鳳炎は、人型へと戻ってガラスコップに残った液体を嗅くと、軽く一口飲んで感想を述べる。 「見事なものですね。まごうことなき〈聖夜の水〉ですよ」 「健康な人が飲んでも害はないの?」 「体内に魔毒要素がなければ、ただの水です」  因みに魔毒要素とは、思い出した知識によると〈穢れ〉と呼ばれる毒素の事だ。  魔族を含め〈魔に魅いられし者〉の気質があると、耐性から死ぬような事はないと言われているが、少しでも〈天に導かれし者〉の気質があると犯されてしまうらしい。 「御主人も飲んでみますか?」 「うん」  過去に発注してたようだし、鳳炎が勧めると言うことは飲める体質ではあるんだろう。  恐る恐る一口味わってみると、炭酸が抜けた三ツ〇サイダーの味がした。 「いかがですか?」 「ん~、不味くはないんだけど……」 「いつも頼まれてた濃度にしましょうか?」  ーーそれって良いことなのかな?ーー  今より炭酸がキツく感じるってことは、もれなく体内に魔毒要素があるって事である。  
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