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「手慣れてるもんやな」
「味は保証しないよ」
茶器は馴染みのある急須だけど、中に入れるのは茶葉ではなく小さく砕かれた鉱石から味が滲み出る仕組みのため、見よう見真似で淹れたに過ぎない。ひとまず毒味してみるけど、初めてにしては上出来だと思った。
「ところでウォームは?」
「まだLiderに捕まってるんやないか? ワイは、急ぎ施設に連絡せなアカン責務を全うしただけやし」
すると横からムグルがテレパシーで、(ウォームに厄介事を押し付けたようだね)と俺に伝えて茶をすすった。
「じゃあストームも知らないパターン?」
「なんの話や」
困った様子でムグルと目を合わせると、機嫌を損ねたストームが湯飲み片手に質問。
そこでグレイから聞いた話とウォームから受けた報告を伝えると、眉にシワを寄せたストームは、「じゃまくさい事になったの」と呟いた。
「邪魔臭い?」
「共通語で面倒臭いって意味だよ」
「よぉ知っとんな」
発音からして、凄く邪魔という意味だと思ったけど方言のようだ。珍しくストームがムグルに対して感心を示すと、何故そう思ったのか説明してくれる。
「恐らく今回の事件、Liderの内情が深く関わっとるんやろう。ワイ等は正規の手続きを踏んでグレイに会いに行ったにも関わらず、包囲された身やしな」
「でも魔法が使える相手を敵にまわすなんて考え難いから、グレイ君狙いだろうね」
「そうやな。大体グレイのような知名度の無い者が行方不明になったら、あっちゅう間に死んだ事にされるで」
ーー怖っ。
だけど格差社会のようだから、ムグルの読みが正しければ、ストームが言いたい事も分かる。それだけグレイは弱者の立場なのだ。
「もし彼の脅威がLiderとなると、ボク等WPPOが預かるよりフレム君の傍にいた方が安全かもしれないね」
「せやな。待遇からして、フレムを敵に回しとうないのは明らかや。フレムに護衛が付くんなら、フレムがグレイを守った方が安全かもしれへんな」
そう言って通された部屋を見渡したストームは、足を崩して茶をすすった。ようやくムグルが側に居ても、リラックスする気になったようだ。
「それじゃあ君達の帰宅に同行する形で、護衛を付けてもいいかな?」
「そうやな。今夜は飛べそうにあらへんし、グレイを狙った目的がフレムにあるかもしれへんしな」
「そうだね。彼はフレム君の身の回りの世話を任されている、唯一の人材なんでしょ?」
ーー確かに。
ムグルに問われて、ようやく幹部以外で俺の面倒を見てくれてる一般人は、グレイだけであると自覚。狙われても致し方ない状態であることに気が付いた。
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