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「失礼いたします。漆黒の森に白の領域が出現。日を改めて調査に向かうとの連絡が入りました」
それは、教皇直々に今後の在り方を耳にした後のことだった。執務室に戻ったラジルは、一息吐く間もなく部下の報告に聞き耳を立てる。
「漆黒の森は、火炎の守護者・ウォーム殿の管理地であったな」
「はい」
「フレム殿にその話は?」
「伝わってるはずです。しかし、彼と行動を共にしてる者は一般職のLiderです。この度の出来事がどれ程凄い事か、さすがにご存知ではないかと……」
「しかし彼の傍にいるのは、リトルバル博士の息子でもあるのだろ?」
そうとは知らず、〈捨駒〉と称される潜入捜査を担う立場へと追いやってしまったのは、後世がいる順に優遇される仕組みだろう。
この世界は、明確な寿命が無い代わりに家族の有無で命の価値が決まってしまう風習がある。
故に成人する前に両親を失うと、生活が一変する者が後を立たない状態であり、フレムの世話役として仕えるグレイも例外ではなかった。
「ですが、成人するまで孤児院で生活していた記録がありました。果たして覚えているでしょうか?」
かつて、この世界の真実に辿り着いた者を知る者は限られている。そもそも一般的な職務を任された後、身内がいない事を理由に弱い立場となった者が余計な事を知る術はないと言っても過言ではない。
「……調査の同行には誰が選ばれた?」
「初動隊隊長とその部下が2名。学者は、徒歩での移動が可能な若手2名だそうです」
「若手か」
それでもLiderの一員で、裏世界に従事する仕事を任されている者なら〈白の領域〉を知っているはずだ。何故なら、その領域を広げることこそが生活圏を得る最も確実な手段なのだから……。
「もしフレム殿の同行が決まれば、彼の探究心を阻害するような発言は慎むよう通達せよ。間違っても彼が使用した魔法の影響によるものだと誤認されれば、WPの連中が黙ってはいないだろう」
「急ぎ周知いたします」
ラルゴの指示を受けた部下は姿勢を正して応えると、握りしめた右手を胸に当て、深く一礼してから部屋を後にした。
「忙しくなりそうだな」
喜ばしい出来事とは裏腹に急激な変化に不安を感じたラルゴは、重い溜息を吐のだった。
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【これからの期待と不安/完】
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