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「もしかして、夕食はーー?」
「キープしていますよ。今温めますね」
「良かった! 朝までお預けかと思った」
「グレイさんが、どんなに早く起きても朝食前だろうと言って、特別に用意して下さったんですよ」
つまり俺が魔法アイテムを作ってダウンした事は、すでにラーリングの耳にも入っているのだろう。小言覚悟で「何か言ってた?」と聞いてみると、キッチンカートに用意された一人前の土鍋を魔法で温めながら鳳炎が答えてくれる。
「さすがに呆れて、突っ込みもしませんでしたよ」
「なんかリアルに想像出来るな」
恐らく爆睡する俺の様子を見て、〈言った側から無茶しやがって〉とか思われたに違いない。苦笑いを零すと、鳳炎が小さく笑って話を続ける。
「ウォームさんも、朝食までに御主人が起きなかったら予定を変更すると言ってましたよ。今は外部からの侵入を警戒して、野外にいるようですけど」
「外部からの侵入?」
「目視出来ませんが、森が騒めいてるそうです」
「森が?」
それを聞いて瞬間的に頭を過ったのは、エレクから聞いた話と屋上から見た光景だった。もし光る木々が増殖を重ねていたとしたら、今頃周囲の森はオセロの碁盤状態になっていることだろう。
そして、ストームがテレパシーに乗せて教えてくれた<白の領域>の語源が、アスタルトを<白の石>と呼ぶ切っ掛けだとしたら――。
突発的な閃きだけど、黒々とした森がアナトの領域であると仮定するだけで現状が理解出来る。巻き込まれるような事があれば、我が身を守るだけで精一杯の情景が目に浮かんだ。
「Liderは、それでも探索するつもりでいるんだよね?」
「そうですね。延期しても、中止までは考えていないようですが……。御主人、何か心当たりでも?」
「ん~、心当たりと言うか。エレクさんの話が本当なら、アスタロスとアナトの抗争でも始まったんじゃないかな? と思って」
そこで鳳炎も何か思い出したのだろう。
温め終えた食事を前に一時停止した後、笑えないとばかりに複雑な表情を浮かべてみせた。
「確かに見ようによっては、オセロの盤上の様に刻一刻と変化はしていますが」
「とりあえず飯食ってから様子を見に行きたいんだけど、深夜帯だから無理かな?」
「いえ。そう言う事ならウォームさんに掛け合ってみましょう。御主人は食事を済ませて下さい」
「有難う」
鳳炎が面倒事を引き受けてくれたお陰で、食いっぱぐれすることなく用意してくれた料理を胃袋に納めた俺は、軽く身なりを整えてから部屋を出た。
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