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「どうかされましたか?」
「いや、その……。食料になるような動植物もいないのも不思議なもんだな、と思いまして」
変なことを言って、ややっこしいことになるのも嫌なので。オリバーの問いかけに、咄嗟にしらばっくれてみたが上手くいったようだ。
そのぐらいの事は、一般常識とばかりにピブルを介せず応えてくれる。
「裏世界は、黒の死石が割を占めてる土地柄なので。順応出来ない生物は本能的に避けるんですよ」
「人間は平気なんですか?」
「死石の大半は、我々と言われていますからね」
つまり黒の死石の大半は、人間の悪意から生み出されたと言われているのだろう。まぁ人間がアナトに変貌するのだから、あながち嘘ではなさそうだけど……。そんな人間の人口を考えると、どうにも腑に落ちない事から質問を続ける。
「それは生まれ付きアナトでした。ということは、まず無いってことですか?」
「そう言えば、聞いたことありませんね」
「学者である私も聞いたことありません。アナトの発生条件は、死石を口にしたことによる異常としか報告されていませんから」
「色見に関係なく?」
「そうですね」
でも例えピブルが学者とは言え、腑に落ち無い回答だな。と思った俺は、顎に手を添えて考える。
納得がいかないという事は、何かしらの矛盾に気が付いて疑問に思っているからだ。
すると、そんな俺の様子を見ていたパブロフが、おずおずと挙手して発言する。
「あ、あの……。科学的根拠の無い話でも構わないのであれば、アスタルトとアナトは神の審判を受けた姿だと聞いたことがあります」
「あー、その話なら自分も聞いたことがあります。今は宗教的な考えだと非難されがちのため、口に出して言う人の方が珍しくなりましたけどね」
「そうなんですか」
名前は知らないけど、パブロフと比べて年上の護衛も知ってるという事は、民間伝承だった可能性があるんだろうけど……。
その話が本当なら、アスタルトやアナトには神の審判を受ける前の姿があって、先程教えてもらった陰陽個体が当てはまっても可笑しくはない。
それに人間がアナトになった時、天罰が下ったと言われても納得がいく。神の審判を受ける前が人間の姿だとすれば、審判を受けたアナトの姿が天罰という事になるからだ。
「人間がアスタロスになった話はないんですか?」
『へ?』
変なことを聞いてしまったのは、周囲の反応で直ぐに分かった。でもアナトになってしまう事象があるなら、アスタロスになってしまう事象があっても可笑しくはないと思うんだけど……。
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