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「今の俺で何とかなるレベルで良かったよ」
「どうぞ、お使い下さい」
涙を拭ったラーリングは、鳳炎が準備した濡れタオルを受け取ると、泣いて腫れた目を冷やしながら呼吸を整える。
「病院とかじゃなくてゴメンね」
せめてフェイバーに診てもらうべきなんだろうけど、ラーリングは首を横に振って嬉しそうに微笑んだ。どうやら無闇に診断されたくないのは、ラーリングも同じらしい。
「ひとまずウォーム達に報告を」
今ならスフォームの魔法が解けているから、部屋を出て直接報告が出来るはずだ。
しかし、腰を掛けていたベッドから立ち上がろうとした時、ラーリングが俺の上着の裾を掴んで問う。
「フレムさんは、どっちの味方なの?」
「へ?! ど、どっちって?」
「WP? それともスフォーム?」
「どちらでもないよ」
(強いて言えば、ラーリングの味方でありたいと思ってるけどね)
スフォームに聞こえては都合が悪そうな台詞をテレパシーに乗せると、驚いた表情で固まるラーリング。見るからに、予想外の返答をもらって面食らってしまったようだ。
「お茶会するんだよね?」
「う、うん」
「やるべき事やってくるから、鳳炎と一緒に留守番しといてくれないかな?」
「御一人で大丈夫ですか?」
今までずっと鳳炎を肩に乗せて移動してたから、異世界で初めての単独行動。不安はあるけど、ラーリングを独りにさせたくない気持ちの方が強かったので。鳳炎には悪いが、今後を見据えて尤もらしい理由を述べる。
「さすがに職場を独りで歩けないのはね~」
「それもそうですね。行き違いにならぬよう、ウォームさんにはテレパシーで一言お伝えしときます」
「有難う、先に飲み物を振る舞ってあげて」
「畏まりました」
スフォームが権限を握ってた三日間。
俺は部屋の外に出してもらえなかったが、グレイの不在を理由に上膳据膳を担当していた鳳炎。最低限の指示を出せば、きちんと対応する様はまるで執事そのものである。
問題は俺と鳳炎が不在になると、ラーリングの味方がいなくなってしまう事だ。ウォーム達とは何かあったようだし、報告を兼ねるとグレイが適任だけど、彼はウォームの施設に到着して直ぐLiderに呼び出され、鳳炎がまだ見かけてないと言っていた。
ーーグレイに頼り過ぎると、
情報漏洩に繋がるんだろうな。
今まで気にはしなかったけど、スフォームにとってラーリングは弱点という名の弱味。
パワー・バランスを崩さないためにも、ある程度守り通さなければならないと思った。
【もどかしい瞬間/完】
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