第69話/もどかしい瞬間

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「今の俺で何とかなるレベルで良かったよ」 「どうぞ、お使い下さい」  涙を拭ったラーリングは、鳳炎が準備した濡れタオルを受け取ると、泣いて腫れた目を冷やしながら呼吸を整える。 「病院とかじゃなくてゴメンね」  せめてフェイバーに診てもらうべきなんだろうけど、ラーリングは首を横に振って嬉しそうに微笑んだ。どうやら無闇に診断されたくないのは、ラーリングも同じらしい。 「ひとまずウォーム達に報告を」  今ならスフォームの魔法が解けているから、部屋を出て直接報告が出来るはずだ。  しかし、腰を掛けていたベッドから立ち上がろうとした時、ラーリングが俺の上着の裾を掴んで問う。 「フレムさんは、どっちの味方なの?」 「へ?! ど、どっちって?」 「WP(ワッポ)? それともスフォーム?」 「どちらでもないよ」 (強いて言えば、ラーリングの味方でありたいと思ってるけどね)  スフォームに聞こえては都合が悪そうな台詞をテレパシーに乗せると、驚いた表情で固まるラーリング。見るからに、予想外の返答をもらって面食らってしまったようだ。 「お茶会するんだよね?」 「う、うん」 「やるべき事やってくるから、鳳炎と一緒に留守番しといてくれないかな?」 「御一人で大丈夫ですか?」  今までずっと鳳炎を肩に乗せて移動してたから、異世界で初めての単独行動。不安はあるけど、ラーリングを独りにさせたくない気持ちの方が強かったので。鳳炎には悪いが、今後を見据えて尤もらしい理由を述べる。 「さすがに職場を独りで歩けないのはね~」 「それもそうですね。行き違いにならぬよう、ウォームさんにはテレパシーで一言お伝えしときます」 「有難う、先に飲み物を振る舞ってあげて」 「畏まりました」  スフォームが権限を握ってた三日間。  俺は部屋の外に出してもらえなかったが、グレイの不在を理由に上膳据膳を担当していた鳳炎。最低限の指示を出せば、きちんと対応する様はまるで執事そのものである。  問題は俺と鳳炎が不在になると、ラーリングの味方がいなくなってしまう事だ。ウォーム達とは何かあったようだし、報告を兼ねるとグレイが適任だけど、彼はウォームの施設に到着して直ぐLiderに呼び出され、鳳炎がまだ見かけてないと言っていた。  ーーグレイに頼り過ぎると、      情報漏洩に繋がるんだろうな。  今まで気にはしなかったけど、スフォームにとってラーリングは弱点という名の弱味。  パワー・バランスを崩さないためにも、ある程度守り通さなければならないと思った。 【もどかしい瞬間/完】
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