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5年ぶりの再会
『今どこにいる?』
軽快な通知音とともにスマホが小さく振動した。
沙織は慣れないヒールでいつも通りを装いながら、スマホを開き返事を打ち込む。
浮腫んだ足が尖った靴に押し込められて歩くたびに痛い。
『間違えた改札出ちゃって今待ち合わせのとこに向かってる、遅くなっちゃってごめん』
仕事の出張で卒業旅行ぶりに来た東京は、旅行のときとは違うなんともいえない居心地の悪さがある。
『近くに何がある?』
『なんか広場みたいなところについた、タワレコとギャップが入ったビルの横』
『分かった!そこにいて、私が向かう』
『ありがとう!』
夕方の新宿駅前は、スマホを見ながら忙しなく人が行き交う。
駅前広場では、路上ライブをしていたバンドがちょうど冬のバラード曲を歌い終えたところだった。
このバンドは凄いのだろうか。
いつか有名になって売れなかった路上ライブ時代の話を語るのだろうか。それとも方向性の違いといって違う道を進む日も近いのだろうか。
沙織は広場の端で仕事の資料が詰まった手荷物を小さめのスーツケースのうえに置き、ぼんやりと考えを巡らせた。
「さーーおーーりぃーーー」
遠くから手を振り大声で呼ぶ人影は、5年ぶりでも幼馴染のものだとすぐにわかった。
幼馴染の明日香は、5年前、高校卒業と同時に上京し地元を離れた。
明日香は昔より随分と長い黒髪のストレートヘアを風になびかせ、駆け寄ってくる。スラッとした長い手足は昔から変わらない。
「さおりーー!久しぶり、元気だった?」
「久しぶり、元気だったよ。全然変わらないから、すぐ分かったよ。」
「髪染めたの?いいね似合ってる。私も遠くからでもすぐ分かったよ。とりあえずどっかお店入ろう」
「どこの店がいいかな」と沙織のスーツケースを代わりに引きながら歩き始めた明日香は、路上ライブの前で立ち止まり「凄く上手いね、路上ライブってなんか好きだなぁ」と笑った。
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