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高校時代の私たち
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「さーーおーーりぃーーー」
明日香が、廊下の向こうから手を振り大声で沙織を呼んだ。
真っ黒いストレートヘアを揺らし、リノリウムの床をキュッキュと鳴らしながら駆け寄ってくる。
明日香は背が高く、バレー部やバスケ部にも負けず劣らずスタイルがいい。
「今日、生徒会ある?」
「今日は何も無いよ」
「私も今日部活休み!掃除当番だから終わったら、沙織の教室いくね!その後、家行っていい?」
「うん、元々来ると思ってたよ」
「さすが!じゃあ帰りね!」
嵐のような幼馴染は「お邪魔してごめんね」と沙織が一緒にいたクラスメイトにパチンと手を合わせ謝ると、軽快に立ち去っていった。
去って行った先の方から、明日香の大きな笑い声が聞こえてくる。
「今日も元気だね〜」
一緒にいたクラスメイトが沙織に笑いかけた。
「ほんとにね」
「2人は幼馴染なんだよね?明日香ちゃんは、とにかく元気な感じで沙織とは雰囲気違うけど、なんで仲良しなの?」
「んー家が隣だから、あと趣味が一緒ってだけだよ。」
「へーいいね。趣味って?」
「映画とか舞台とか小説とか、なんかそういうの全部かな」
「あー、明日香ちゃん演劇部だもんね。」
「そうだね」と言いながら沙織は曖昧に笑った。
沙織と明日香は、性格も話し方も得意科目も仲良くなる友達も全部違った。
でも、映画も舞台も小説も好きな物語は全て同じだった。
2人は毎日、映画や舞台のDVDを借りて観ていた。
観終わったらあーでもない、こうでもないと、ひとしきり話し、また見始めた。
あぁ、あの頃が1番楽しかった。
小学生の頃から続いていた2人の時間は、中学、高校と歳を重ねるごとに変化していった。
沙織は脚本や小説などの物語自体に、明日香は演技や舞台演出に興味を持ちはじめ、次第に、沙織は小説を書き、明日香は演じ始めた。
明日香が沙織の書いた小説を読んで意見を言うこともあれば、沙織が明日香の練習用に台本を書くこともあった。
そして変わらず、2人で映画や舞台を観た。
繰り返した2人の時間は、進路を決める頃にはもうただの遊びではなくなっていた。
「私女優になるから。」
明日香は、笑っていなかった。真っ直ぐ、髪とおなじ黒目がちな瞳に光を湛えて言った。
「私小説書くから、明日香にいつか演じてもらう」
明日香が東京に旅立った日、沙織か言った言葉は決意だった。
決意だったはずだ。──────────
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