私は─────

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私は─────

「私は、もう書いてないんだ」 明らかな落胆の色が明日香の顔に浮かぶ。 そういえば私はなんで書くことを辞めたんだろう。 「やっぱり難しいよ、書いてる人なんて沢山いるし。もっと昔から書いてる人もいるし、特別才能があった訳でもないし」 言い訳が口から勢いよく零れ落ちていく。 違う、こんなことが言いたいんじゃない。 「ねぇ、沙織、『才能』ってあるのかな?」 「明日香はあるよ。私と違って舞台に立って、目標に近づいてる。明日香は昔から特別だったよ。私とは、違う。」 自分の言葉が刺さって、奥深くまで侵食していき、ジクジクと膿み始める。 「そうじゃなくて『才能』って存在するのかなってこと。東京にきてお世話になった先輩の言葉の受け売りだけど、『才能』っていうのがあるとしたら、こうなりたいんだって言い続けることと、立ち止まらず進み続けられることだじゃないかって、最初から持ってるものなんて多分ないんだよ」 ごめん、明日香。分かってるよ。 『才能』なんて、元々備わっていてなんの努力もなく手に入れたみたいな一言で片付けてはいけない。 明日香はずっと進み続けたから、ずっと前にいるんだ。 私は立ち止まった。 無理だって言われるのが怖くて、「小説家になるから」と明日香以外には言わなかった。 卒業文集の将来の夢の欄に太く大きな字で書かれた明日香の言葉が思い出される。 書かなくなったのは理由があった訳じゃない、書きたいものは沢山あったはずだし、書くことは変わらず好きだった。 でも、情熱を変わらず持ち続けることは難しい。 書かなくなった理由はそれだけだと思う。 書きたいという気持ちが、好きだという気持ちが、気づいたら薄まって無視できる気持ちになっていた。 「ねぇ沙織、あの頃が1番楽しかったね」 明日香の思いがけない言葉に、私は顔を上げた。 さっきまでの目に光を湛えた明日香はもうおらず、ぎゅっと握った手を見つめて、薄く笑っていた。
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