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別れ
「ゔー、、さおりぃーじゃあまたね。すぐ連絡してね」
明日香は小さい子供が駄々をこねるように言い、沙織の肩を揺らした。
「わかった、わかったって。でも無視したんじゃなくて、なんかあの時は『お互い頑張ろう!』みたいな感じで別れたから連絡しずらくて。てか、別に明日香が連絡してくれても良かったんだけど」
「ごめん、なんか報告することなきゃ連絡できない気がしたから」
「同じじゃんか」
2人で目を見合わせて笑う。明日香の笑い声は駅前の雑踏の中でもよく通って耳に届いた。
「あのさ、明日香。チケットはやっぱりまだいいや。」
「え、なんで?次の公演観に来てくれないの?」
「私も明日香の隣に並べるくらいまで頑張るから、そしたら観に行かせてよ」
「ダメ!沙織は自分に厳しすぎるよ。すぐそうやってなんか自分にミッション課しすぎなの、それに高校卒業の時とにたいに連絡くれなくなったら嫌だし…」
「高校の時とは違うよ。なんて言うか、前のときは『お互い頑張ろう』だったけど、今度は『一緒に頑張ろう』でしょ?だから全然違う。連絡もするし、明日香の練習に付き合うし、私の小説も読んでもらう。5万字でも10万字でもね」
「ほんとに?」
明日香は眉を八の字にして、沙織の顔を覗き込む。
「うん、本当」と言って笑うと「観に来て欲しかったのに」とぶつぶつと呟きながら頷いた。
「ほんとだからね、電話してね」と何回も繰り返した明日香はやっと、引き止めていた手を離し「またねーー」と姿が見えなくなるまで、大きく手を振っていた。
姿が見えなくなると、スマホが光りに『絶対連絡してね』とメッセージがチラつき、笑ってしまう。
地元までの道のりは2回の乗り換えを含めて、4時間の電車旅。
心の奥の芯のところに明日香から貰ったエネルギーが灯っている。
ああ、書きたい。書きたいものが本当は沢山あったんだ。
沙織は座席に腰を下ろすと、スマホを開きメモアプリを起動し軽快に文字を入力していく。
『次の待ち合わせは劇場で』────────────
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