手のなか光るビジュ的未来・壱

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手のなか光るビジュ的未来・壱

 バカルテット。  四重奏のことをカルテット、と、云う。  それを、バカ、と、かけあわせかばん語のごとく仕立て上げたこの名前。  バカルテット。  馬鹿の四重奏、ようするに馬鹿四重奏、バカルテット。  高校生のころ、この四人組に着けられた良いような悪いような愛称だ。 「椿屋四重奏、くらいに恰好ついてりゃな」 「マスルがだめじゃん。俺とロゼとクラフトがどんだけヴィジュアル系でも、だいなしのごっつい系だもん」 「よーし、いい度胸だもやしっ子」  太田マスルにアイアンクローをかまされた榊シモンが、痛い痛いイッツイタリアンジョーク! とか身をよじっていた。  セピア色のおもいで。  制服を着て街を駈け抜けた青春時代より、もう幾年か?  すっかり、酒も煙草もOKな社会人になり申して、馴染みの居酒屋でかさねる盃のうまいことようまいことよ。 「そっかー、みんな順調かァ。このご時世に安泰だな」 「ああ。喰ってるし家賃もケータイ代も払えてるし、本も服も買えるし。ロゼもか?」 「ん。似たようなもんかね。そんでこれ、土産」  テーブルの上に置かれたのは、『博多通りもん』と『うまかっちゃん』の入った袋。 「へェ、そうだったか九州? 博多美人見たか?」  訊ねる柘植クラフトの脇からシモンが顔を突っ込み、泉ロゼの出してきたタブレットをのぞきこむ。  マスルは早くも菓子を口にしていた。 「おー、このなめらかな口当たり、うめェな。ありがとよ」 「いーええ」  地方都市のとある居酒屋にて、四人は男子会を開催していた。  地元に定住組の三名はともかく、ロゼがまざるのは、そう、約二ヶ月ぶり。  フリーランスの写真家と云う職業の性質上、本州からはるばる九州まで行って気づいたら一ヶ月が過ぎていて、さァ撮った撮った帰るか、と帰り支度始めようとしたら九州に居ンならちょうどいいから、と、別件の仕事がいくつかできる範囲で入り、もともとのクライアントに連絡したら急がないよー、と云う返事をいただいて、じゃあいいや、と、なったらあっちゅうまに二ヶ月が経っていた。  これだけの歳月をつるんとヨルムンガンドみてーに飲み込むマイペースさが、吉と出たり凶と出たりする、ロゼの仕事への姿勢と運だ。 「しろくま、うまかったわ。豚骨ラーメンも。そう、かわいいネーチャンも見た見た」  楽しそうに語るかたわらで操作するタブレットには、仕事の成果が写っている。 「良いなァ。俺らもどっか行くか、シモン?」  クラフトが相棒の肩に腕をまわした。
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