手のなか光るビジュ的未来・参

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 資料として古いUSBを開いた。  過去の作品が詰まっている。  年代を確認して、なんだかみぞおちに風穴があいた。  心臓だけがタルタロスに落ちてくような。  世紀末の日付の数字を見たらだ。  ちょっと胸が冷えたのち、一気に沸騰する。  生きてた!  俺!  残ってる!  俺こんなにも昔から書いて書いて、認められて、今、未来に居る! 「はは、は‥‥ふふ」 「どうした?」  パーテーション越しの会話。 「晩メシんとき言う」 「そうか」  こう云うときのクラフトの反応が、シモンは大好きだ。  それにしてもだよ。  愛しい。  このモニタ越しのなつかしさ。  サウダージと云う言葉にあてはまるようで、心に綺麗な水が押し寄せる感覚。  もっとデータを探ったら、昔大好きだったネット作家様の玉稿まで丁寧にフォルダ分けされて残っていた。  無断でコピーしたことはあなた様を神と崇めたあかしにて、ご容赦ください!  夢中で読んだ。  かたっぱしから。  そうだよ、あったよ。  過去だよ。  みんなで生きて、楽しませあって、同じモノを好きな気持ちではげましあって、成長してきたよ。  ここに居るんだ!  涙で視界がにじむ青年の胸に、思い出がいっぱい、いっぱい、ふくれあがった。  バカルテットの記憶だって鮮明に見えてくる。  なかよく学校サボった。  教室でしゃぼん玉飛ばして叱られた。  晴れた日に教室のテラスで正午の汽笛を聞いて、青春だな、と、みんなでしみじみした。  学校の共有のPCで、見ず知らずの上級生とリレーBL小説書いた。  乏しい財布ふるいあって、同人誌ポチっとなした。  クラスマッチの競技にカバディを提案したらあろうことか採用され、言い出しっぺだからとルールからその概念まで全校生徒に教える苦労を背負わされひーこらした。  夏休み、ちょっと遠出した町のコンビニでルパンごっこして旅の恥はかき捨てをした。  ロゼがいっこ上の女子生徒と惚れあったものの、「あなたと話してるのって山彦みたいなのよ」と、一ヶ月つきあってご破算して一ヶ月おちこんでた。  記憶は記録。  不意にシモンの脳を打った言葉。  現実とネット空間の描かれ方が独特で、ちょっと流行った深夜アニメの何か。  世紀末の年号を冠するゲームキッズ的なサブカル小説だって、読んだ。  きらきらする。  おもいでが。  きらきらする。  生きてたんだ。  いつかのこと、祖父が江戸時代の硬貨を見せてくれたことも、心のメモリから浮き上がってくる。  緑青色の重い塊。  うれしかった。  少なくとも江戸時代あたりの過去が、学校で学んだような歴史が、人類の世界が、過去から未来へと、たしかに繋がり存在してくれた事実。  心の中でエンターキィが打たれた。  ダイジョウブ、の、入力ののち。  時の流れの中で迷子だった小さなシモンの手を、大人のシモンはにぎった。
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