手のなか光るビジュ的未来・参

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 ほやほや良い気分で今日が終わる。  お風呂入ってさっぱりして、おいしくゆったりごはんの席で、シモンはビールの硝子コップ片手に今日の奇蹟を語った。  クラフトは口角をあげたまま、適度な相づちを打って聞いている。  同い年なのにずっと年上のお兄さんみたいな包容力でシモンをくるんでくれるクラフト。 「俺ね、死んじゃうのちょっと怖い。みんなそうだろうけどさ。でも俺の場合さ、忘れられちゃうのがもっともっと、めっさ怖いの。もし、俺が今後、何世紀も誰かがおぼえててくれるような大作書いて、歴史に名前残っても、太陽系がなくなっちゃったらそれすらも宇宙のもくずだろ? 宇宙人とか来て、地球があったこと、再生してくれたら良いな。つか、今こうやって生きてる現実がそれかもしんないよね。どう?」 「うん。いいな。それ今度、大人向け絵本でプレゼンしてみないか? 少し見えた。空が広すぎて迷ってる、迷い続けてる仔猫の姿」 「俺、猫でもあまえんぼだよね」 「そう云う和猫が俺は好きだ」 「えへへー」  あったかい夜だった。  ふたりのびのびパジャマ着て『二』の字になってベッドに寝転ぶ。  奮発したクイーンベッドの上。  クラフトがシモンのあごを、猫にそうするようになでる。 「にゃー」 「はは、かーわいいな」  今度、首輪買ってきて着けたろか。  アクセサリー、と、云い張っていいようなチープなのにして、でも、その首輪には『クラフトの愛猫』とか『柘植シモン』とか打刻しときたい。  シモンの目に蝋燭の光が映り込み、ゆれている。  ふたりの寝室、夜に、ダウンライトと共にいつも灯しているテラピーなそれ。  専門店に行ってオーダーした、ミントが混じり爽快でありつつもこっくりしたチェリーのあまい香りがふわりと漂う。  ふたりそろって好きな果物。  んで、香りは時々変わって、クラフトがどうしてもムスクを選びたがるからそのたびシモンに、すけべ、と、でこをつつかれる。  猫でもネコでもすけべでもタチでも、みんなどんな称号や地位を持っていても変わらないことがひとつだけ、ある。  未来がくること。  それ。  しかしそれは、そんな恐れなくて良いんだよ、仔猫ちゃん。  すべきことをそうあるようにできていれば、いつか何か、どうにかなるし報われる。  警戒しすぎること、重く考えすぎること、は、適度にすれば、未来はいつも安心。  今夜、猫がいっぴき、極上の宝石を手に入れた。  ちゃんと生きてきたからきらきらの、好きなヒトとの今と昔と未来の宝石。
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