空の果てから雲のむこうへ・壱

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 クラフト、綺麗。  高坊のころからずっと、このヒトは背すじまっすぐでヒトの目を引く。  話を聞いたり写真見たりくらいでしかシモンが知らない中坊以前だって、どんだけの何を魅了してきたか。  ここまでの成りなら芸能界どうこう興味ないか訊いても、めんどくさいし胡散くさい、それより職人みたいな腕前で喰ってきたい、と、結局イラストレータとして社会に居る。  そう云った一連をバカルテット現役から今も会話するに、クラフト本人的にまっさきに浮かぶのが、姉の柘植シャンティだ。  二桁年齢が違うため、この女は弟に姉であり母だった。  強く、美しい女だ。  小柄でもクラフトとまた違った魅力の持ち主で、高校生時代は母校開闢初めての女会長を務めあげ伝説を作った。  ん?  重荷じゃねーか、と?  あんま。  むしろ誇らしい。  あそこまでいくとヒトとしてあっぱれすぎて、負の感情なんぞ持ちようがない。  買ったモノ下げてふたりは帰路についた。  肉まんあんまん歩き喰いする。 「あー、あまァ!」  熱いのほおばってシモンが嬉しそうに口から湯気だした。  あんまん、てさ、そう云えばさ。  コンビニのやつ、いつのまにかゴマあんまんがメインになってね?  いくらか前まではフランチャイズごとに粒あんやシンプルなこしあんで楽しませてくれたのに、いつのまにかゴマあんまんさん優勢。  ちょっとさみしーなァ、と、でもこのゴマのコクたまらんシモン。  そんで今クラフトが食べてんのはピザまんだ。  まずのひとくちめは交換して食べてて、いっしょの美味しいねを共有すんの、しあわせ。  公園で深呼吸、マイナスイオンと空の広さを堪能し、家に入った。  ポットから注いだフレーバーティでひと息つく。  今日のは苺の香り。  少々加えた蜂蜜があまくて、透明な赤い液体がぬくくほっとした。  ビーズクッションの上でのんびりするシモンは、ホント、手のかかる猫だ。  買ってきた本をさっそく読んでる。  だから? て?  買ってきた共同のモノを、例えば食材なんかを冷蔵庫に入れるの手伝わないし、自分のモノだってそっちのけ、お茶をカップに注ぐだけにしてもクラフトがやった。  あまやかすのよくないよな。  思ってても、苦じゃないし、そもそも恋人兼ペットみたいな存在なんだから、これで不満はないクラフトだ。  つかえらいこと満足だ。  ちなみにクラフトがそんな真似したら、シャンティの愛の平手打ちがさく裂する。  あれ、痛いんだよな。
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