第一章 歩

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 受験生の一年は早い。いや厳密に言えば勝負期間は9ヶ月だ。卒業の前に高校生活を満喫することはこの高校に在籍する私たちにはない。授業が終われば皆足早に塾へ向かうのだ。休み時間さえも削って参考書や問題集を開いている者もちらほらいて、正直なところ、教室の重い空気には酸欠状態を起こしてしまいそうになる時もある。そんな日々と共に、高校最後の学校行事は坦坦と過ぎていく。体育祭、合唱大会、クラスマッチが夏休み前の主な行事で、私たちは大した思い入れもなく行事をこなした。そして夏休みは勝負の別れ道と言われる時期で、たくさんの模試で埋め尽くされる日々を過ごし、希望と現実の狭間に立たされ皆の顔つきも次第に変わっていく。  夏休みがあけて、校内実力テストが行われた後、3年生にとっては最後の行事である文化祭がやってくる。年が変わってからのマラソン大会とクラスマッチは1、2年生だけの行事となるからだ。  9月後半、10月を目の前にした残暑がまだまだ厳しい最中の開催だ。夏休み明けの校内実力テストが終わるや否や文化祭の話し合いが始まり、行事などとは関係なく無心で進んでいく授業とは裏腹に、伝統ある進学校の私たちにも笑顔と活気が宿り、ほんの少しだけ学校全体がお祭りムードになる。そんな中でも、先生たちの『受験生であることを忘れるな』と言わんばかりの喝入れは容赦なく続く。
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