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よく古着屋に行くというのは本当のようで、沙良は迷うことなく下北沢の雑多な通りを進んでいる。
最初はただ圧倒されていた土屋は、四軒目の古着屋に入ったあたりでようやく心の余裕が生まれてメンズコーナーを自ら物色した。古着といえば柄シャツのイメージがあるが、自分に合うのはどれだろうか。迷っていると、ロングスカートを手にした沙良が寄ってきた。
「あ、岩本さん。この中で俺に合いそうな柄シャツあるかな」
「そうですね……、こちらはいかかでしょう。大人っぽくて、土屋くんに似合うと思います」
沙良が手に取ったのは、紺と青の落ち着いた柄シャツだった。土屋の好みの雰囲気だ。
「ありがとう。これ、買ってくる」
「はい!」
沙良は目を細めてはにかんだ。
ずっと歩き続けるのはさすがに暑く、土屋と沙良は屋台ぐらいの広さしかない店でソフトクリームを買った。店先のベンチに座ってソフトクリームをなめながら、ぽつりぽつりと会話をする。
「そういえば、岩本さんってどうしていつも敬語なの?」
「教師だったおばあちゃんの口調がうつって、私もこうなりました。両親が共働きだったので、昔からおばあちゃんと過ごすことが多かったんです。古い映画を観るようになったのも、おばあちゃんがきっかけです」
丁寧な話し方も映画のヒロインの格好も、沙良にはよく似合う。
そう思っていても、土屋は到底口には出せない。
「後半戦、行きましょう!」
勢いよく立ち上がった沙良の手からは、ソフトクリームが消えていた。
「待って、まだ俺食べてないから」
沙良は案外、人を振り回す才能がある。土屋は残りのコーンを口に押し込むと、同じく立ち上がった。
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