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ふと気づくと朝だった。昨夜、カーテンを閉め忘れたのか部屋に入ってくる光が眩しくて目を細める。そうだ、レインボウの開店準備をしなければ。香澄は妙に重い身体を引きずるようにして一階に下りた。
いつものように店の窓を開け、空気を入れ換える。店内が妙に埃っぽいのはどうしてだろう。昨日もちゃんと掃除をしたはずなのに。
「昨日?」
それは本当にだった? ううん、そんなことどうでもいい。香澄はドアを開け『オープン』と書かれた札をかけると、キッチンに向かった。モーニングの準備をしようと冷蔵庫を開ける。けれど、中は空っぽで機械音だけが響いていた。
「どうして……?」
レインボウで出している料理の材料は、全て地元のお店で仕入れている。仕入れているといえば格好がいいけれど、実際は前日の夕方に香澄が買い出しに行っているのだ。地産地消が弥生のモットーだった。なので、昨日も夕方には買い物に行ったはずなのに、なぜ?
これでは今日の店を開けることができない。いや、今から買いに行けば間に合うかもしれない。冷蔵庫を閉める香澄の耳に、ドアベルの音が聞こえた。
「いらっしゃいませ。すみません、今――」
「香澄ちゃん、何してんねん」
そこにはほほえみ商店街でカレー屋を営む雲井とその妻である亜矢の姿があった。二人の手にはエコバッグがあり、中には何かが入っているようだった。
慌てたように入ってくる二人に香澄は笑顔を作る。
「あ、雲井さんに亜矢さん。おはようございます。ちょっと待ってくださいね。私、昨日買い物忘れちゃったみたいで冷蔵庫空っぽなんです。だから買い物してくるんで」
「そないなこと聞いてるんちゃう。なんで店開けようとしてるんやって聞いてんねん。弥生さんが亡くなったとこやいうのに」
雲井の言葉に、香澄は何とか笑顔を浮かべようとして、けれどどうしても笑えなくて結局、苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「おばあちゃんが死んだからってお店閉めてたら、怒られちゃいます」
「そんなわけないやろ。ええからとにかくここ座り。朝はなんか食べたんか?」
香澄の肩を掴むと、雲井はカウンターの椅子に座らせた。
香澄を挟むように雲井たちが座った。
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