教訓、二。魔が差すと即ち、死を見る。

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「分かりました。陛下が療養(りょうよう)させると仰った意味も理解しました。セルゲス公には今、先生がご注意されたことに気をつけて接するように致します。  …ですが、慣れないものですから、おそらく何か不手際が起こるかと。いや…きっと起こると思います。そうなった場合、セルゲス公のニピ族の護衛に先生が取りなして下さいますか?」  シークの発言にベリー医師は、驚いた様子だったが、少し考えて頷いた。 「分かりました、いいでしょう。セルゲス公を敬い、きちんと護衛する気がおありの様子なので。まあ、故意に失敗した場合は知りませんが。」  ベリー医師の意味ありげな発言に、隊員達は顔を見合わせる。 「…あなた達も聞いているでしょう?」  シークは身構えた。いよいよ聞きたくても聞きづらい話の核心に近づいてきた。 「何をでしょうか?」 「セルゲス公のニピ族の護衛が、前回の護衛の三分の二を皆殺しにしたという話を。」 「はい…。聞きました。あの、本当の話なんですか?セルゲス公に…その…欲情したからという理由でしたが……。」  ベリー医師は眉間に(しわ)を寄せて考え込んだ。 「理由まで聞いていたんですね。セルゲス公には決して口を滑らせないで下さい。もし、滑らしたら私が息の根を止めますよ。」  シークを始め、隊員達は目を白黒させた。カートン家の医師は全員、ニピの踊りができる。ニピ族と契約をしているからだ。ニピの踊りを教えて貰う代わりに、どんな時でもニピ族を助けるという契約を交わしている。真顔で言われると冗談には聞こえない。 「…先生、冗談には聞こえませんね。」 「もちろん、冗談ではありません。セルゲス公には、前の護衛達は契約違反をしたから、置いてきたと話してあります。まあ、殺さなくても話せなくなるようにしましょうか。」  いや、それはそれで困るが…。 「とにかく、本当のことです。私もあんなに理性が飛んで、ぶち切れているニピ族を初めて見ました。カートン家にいるニピ族は、最近はあんまりそんなことがないのでね。  護衛の三分の一が生き残ったのは、簡単な理由です。別室で寝ていたから。上司や先輩のやろうとしていることに反感を持ったり、口出しする権限がない者、また、ニピ族を知っている者は加担しなかった。だから、命拾いしたという話。  後の三分の二は全員、死にました。血の海でしたよ。さすがに私も吐きそうになりました。大体、その話は私が報告したんですから、本当のことで全てが事実です。」  ベリー医師の言葉に誰もが呆然としていた。目の前の医師が現場にいた人だったとは。考えてみればそうかもしれないが、だが、それでも少し(おどろ)いてしまう。  呆然とした妙な空気のまま、とりあえず解散となった。国王軍の兵士達はコニュータの宿舎に泊まる。シークはベリー医師に話があると言われ、ベイルに隊のことを任せた。  シークはベリー医師に連れられて、別室に移動した。人気(ひとけ)の無い場所だ。 「先ほどの話ですが…。」  ベリー医師も少し考えている様子だった。 「以前の隊が起こした不始末についてと、セルゲス公が受けた虐待について、もう少しお話ししておこうと思いましてね。  こんな話はセルゲス公の名誉に関わるので、大勢にはできません。ですが、ニピ族の護衛がぶち切れた理由を理解して頂くためには、隊の長であるあなたには、話しておく必要がある。そう考えたので、お話しするのです。他言無用でお願いします。」  シークは思わず姿勢を正して頷いた。決して軽々しく聞いてはいけない話だ。王子かどうかという以前に、なんて扱いを受けていたのだろう。子供にひどい話だ。 「セルゲス公のご容姿が整っておられることはご存じですね?」 「噂には聞いています。亡きリセーナ妃殿下によく似ておられるとか。」  リセーナ王妃のかつての肖像画は見たことがあると伝えた。 「実際には、肖像画の二割増しくらいにお美しいお方だったと思って下さい。セルゲス公は小さくしただけ。」  普通は肖像画の方が少し美しく描かれるものだ。肖像画より実物の方が美しいのはあまりない。 「…それは。美しい方でしょうな。」  それしか言いようがなかった。ベリー医師は一つ(うなず)くと衝撃(しょうげき)の発言をした。 「セルゲス公はその愛らしいお美しさのため、性的虐待も受けていたのです。」 「!はぁ?」  思わず妙な声を上げてしまう。慌てて咳払いしてごまかした。 「ですから、そのあまりに辛い記憶は、私達が治療の一環で忘れさせました。」 「そ、そんなことができるんですか?」 「完全ではありません。ですから、護衛は徹底的に気をつけていました。思い出すことがないように。」  それは護衛が怒るのは理解できる。しかし、王と王太子からはそこまでの深刻さは伝わってこなかった。 「今の話は陛下と王太子殿下にもお話し申し上げていません。もし、お伝えすれば妃殿下に気づかれ、セルゲス公に送られる刺客の数が増えます。」  ベリー医師の話にシークは納得した。 「それで、納得しました。陛下のお言葉からは、そこまでの深刻さが伝わってこなかったのです。王太子殿下もセルゲス公に良からぬ思いを抱く者がいる、ということを憂慮(ゆうりょ)されておられましたが、実際に手を出されたとは一言も仰っていなかったので。」  そこまでひどい叔母なら、刺客を送るなど朝飯前という気がする。今はセルゲス公の安全を大事にしなくてはならない。 「そうでしたか…。」  ベリー医師はなぜか、そこで一番意外だったという表情をした。 「実は、前の護衛達は妃殿下の息がかかっている者達でした。」  シークは嫌な予感がした。 「想像がつきましたね?私と護衛のフォーリをだまし討ちにしたのです。」  ベリー医師は詳しい状況を説明した。  
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