アンタを嫌いになりたい

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 九時に約束を取り付けたおれは、熱めのシャワーを浴び、バスローブ姿でクローゼットを開けた。  「…今日は、これにするか」  ダークブルーのスーツはおれのお気に入りの一着でもあるが、初めて日置に会った日に着ていたスーツだ。  ボタンを嵌めながら、あの日、日置が怯えてこのスーツにしがみついてたのを思い出した。  「覚えてたら面白いんだがな」  クツリと笑って、ネクタイをキュッと締め上げた。  ソファーに座ると煙草を燻らせながら経済新聞に目を通し、待ち合わせの時間になるのを心持ちソワソワしながら待っていた。  「10分前か…」  そろそろ一階に降りた方がいいな。  おれはこのプレジデントホテルの最上階にあるペントハウスを借りて暮らしていた。  ペントハウスから直通で降りるクラシックなデザインのエレベーターに乗り込むと一階のボタンを押した。  自分でも気分が高揚してるのが分かる。  エレベーターの鏡に映る自分の顔が緩んでいるのに気づいて、口角を引き締めた。  チン、と音が鳴りドアが開くと、右手側にホテル入口のドアが見える。  「…もう来ていたか」  おどおどと不安げな表情で、ホテルのホールを見渡す日置は、警戒する小動物を思わせて可愛らしい。  ずっと見ていたい気もするが、時間も限られている。  「日置くん、こっちだ」  「あ…貴城社長っ」  おれが声を掛けると、驚いて目を瞬かせた後に、ホッとしたように日置がおれに微笑んで見せた。  ―――その笑顔は反則だろう?  このまま部屋に連れ込みたくなるじゃないか。
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