君の隣で眠らせて

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会議の内容は正直全然千秋の頭に入って来なかった。 終盤に山崎からメンバーに人事異動の件が伝えられた。山崎の昇進に伴い木下が山崎のポジションに就き、木下のポジションに千秋が就く、というよくある繰り上げ人事だった。 ただ木下が山崎の後任となることへの驚きはなかったようだが、やはり千秋が抜擢されたことに対してメンバーの動揺が微かに感じられた。 当然次期リーダーは中原だと誰もが思っていたはずだ。千秋だってそう思っている。 中原はこのことをどう思っただろう。 千秋が気になるのはメンバーの反応よりも中原の心境だった。 半年の差ではあるが社歴も長く、優秀な男性社員である中原ではなくなぜ千秋なのか。 そのことにみんな納得してくれるのだろうか。 ホワイトボードに走り書きされた新チーム体制。 広瀬の後ろにリーダーを示すLの文字、千秋はぼんやりと眺めていた。 そんな千秋とは対称的に木下は待ちに待った昇進がうれしいのだろう、終始笑顔だった。 木下さん早くマネージャーになりたいって言ってたもんな。千秋は飲みの席で語られた、木下の今後の社内での熱い展望を思い出していた。 今後の業務の引き継ぎスケジュールなどを軽く打ち合わせし、千秋は定時が来ると早々に会社をあとにした。電車に乗り込みこのあとの段取りを考えていたがいつのまにか意識は仕事へと向いてしまう。 拓実のことを今日の女子会で聞いてほしいと思っていたけれど、涼と紗雪に仕事のことも相談したい。 断ることは難しいとは思うけど...それでいいのだろうか?役職がつけば求められることも当然多くなる。生活における仕事の割合が今以上に増える。 拓実と別れて結婚の予定など完全に無くなってしまったけれど、このまま仕事にがむしゃらになる日々を送って30代半ばを迎えていいのだろうか。 仕事をしていても恋愛はできる、それはそうだ。 でも恋愛へと繋がる出会いは積極的に自ら求めなければそうそう降ってこないことはこの数年で身をもって感じている。 仕事に振り切るほどの情熱があるかと言えばそこまでの気持ちを千秋は現時点では持っていない。
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