君の隣で眠らせて

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少し熱を持った身体にひんやりとしたシーツが気持ちいい。 寝返りを打って伸ばした指先が何かに触れた。 それは生暖かい何か。 生き物だけが持つ温かくて優しい体温。 そばにあるだけで涙が出てくるようなぬくもり。 広瀬千秋、29歳と10ヶ月。独身一人暮らし。 彼氏にもフラれたばかりで、添い寝してくれる存在など残念ながら皆無。 ならばこれは誰。 頭が鈍くぼんやりとしている。考えることを拒否している。きっとこの不快感は二日酔いだ。 千秋はお酒は強い方だ。少々のことで二日酔いすることも記憶を失うこともない。 ならばなぜ昨晩は飲みすぎた? そう、私はあいつに振られてー 別れ際の男の表情を思い出した。 その瞬間、ずっと押さえ込んでいた悲しみと怒りと屈辱が混ぜ合わされた暗い暗い感情が体の奥底から湧き上がって爆発しそうになる。 と同時に隣に横たわる人間の存在をはっきりと認識し、千秋は声にならない声をあげた。 これは人だ。しかも成人男性。 「え、あ??だ、誰?」 シーツにくるまれ気持ちよさそうに寝息を立てるその人を起こさぬよう恐る恐る覗き込む。 場合によってはいますぐ逃げ出さねばならない。 同年代よりも少し若そう、白く柔らかそうな肌を見て千秋は思った。 働かない頭をフル回転させる。 同じベッドで寝ている、それすなわちそういうこと!? はっと慌てて自分自身を確認した。 明らかに自分のものではないTシャツ姿であることに気づくが、下着はつけている。 こ、これは...そういうことなの?どちらとも取れる状況。 事後、ということなのだろうか。 名前もわからぬこの人と私は...。 ていうか、この人誰!!
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