運命の分かれ道

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 仙石駅方面に向かっているだろうという奈央の予想は当たった。  2つ先の交差点で信号待ちをしている女性を発見したのだ。 「あの女性です!」  奈央が前方を指さすと、木南は路肩に車を停めた。 「俺が徒歩で尾行するから、おまえは適当にその辺を流してろ」  木南がシートベルトを外しながら言った言葉に、奈央はスッと血の気が引いた。  何を隠そう、奈央は運転が下手なのだ。  仮免の技能試験は5回落ちているし、卒業検定は3回落ちている。苦手意識が強いから、なるべく車の運転はしないようにしている。  交番勤務時代はパトカーを運転せざるを得ない場面もあって、その時は冷や汗をかきながら運転していた。  パトカーならまだ教習車に近いからいいが、木南のボルボは車高が高いし横幅も縦幅の感覚も教習車とは全然違う。  ましてや上司の愛車だ。これまでのようにサイドミラーを電柱にぶつけて始末書を書くだけでは済まない。 「えっと、私も一緒に尾行するんじゃダメですか? 男性に後をつけられると女性は怖がって逃げてしまうかも。またカップルのフリでもすれば」  言いかけた奈央の話を「いや、おまえはプールで警戒されてるからダメだ」と一刀両断にして、木南はさっさと車を降りてしまった。  女性はスマホを耳に当てて誰かと話しているみたいだ。青信号に変わったのにも気づかない様子で話し続けている。  彼女が何か犯罪を犯した疑いがあるのなら、呼び止めて職務質問することができるが、まだ何もしていない今の段階では尾行して身元を探るしかできない。  同じ理由でフィットネスクラブに個人情報の開示を求めることも出来ないからだ。  そうだ。あの女性はプールに足繫く通っているというだけで、何も悪いことはしていない。  たとえ彼女が奈央の睨んだ通りアウェイから来た人間だとしても。  運転席に座って座席の位置を直した奈央は、ハラハラしながら車をゆっくりと発進させた。  女性はまだ交差点で立ち止まったまま通話を続けていたが、ようやく横断歩道を渡った。  木南がゆっくりと彼女の後を追っていくのを横目に、奈央の運転するボルボは2人を抜かしていった。  「その辺を流してろ」と言われたが、右折も左折も苦手だからとにかく直進して、大通りを右折した。  タイミング的には右折の方が難しいが、左折の方がハンドルを切らなくてはならないし、歩行者の巻き込み事故も怖い。  何度か右折を繰り返して元の通りに戻ったのに、女性と木南の姿はなかった。
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