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キャーッという甲高い悲鳴が聞こえた気がして、奈央は自分の寝室から出た。
裸足に廊下の冷たさが伝わりスリッパを履き忘れたことに気づいたけれど、それよりもさっきの声が気になった。
「ママ?」
寝惚け眼を擦りながら階段を降りて、足を止める。
リビングにはクリスマスツリーの電飾がチカチカと瞬いていて、薪ストーブの火が見えた。
心温まる光景にホッとしたのも束の間。
奈央の目に飛び込んできたのは、ソファーに座った父親が不自然な姿勢で血だらけになっている姿だった。
その足元に横たわっている母親も、虚ろな目を開いたまま動かない。
パパとママは死んでいる。たった今、誰かに殺されたんだ。
そして、その犯人はまだこの家の中にいる。
死体を見たのは生まれて初めてで自分の両親が死んだと言うのに、奈央は妙に冷静に考えを巡らせた。
こんな時こそ緊急ボタンを押さなくては!
幸いなことにセキュリティーシステムの真っ赤な緊急ボタンは、今、奈央の真横にある。
先週うちに遊びに来たカズくんがいたずらして押したら、物凄いアラーム音が鳴って、すぐにヘルメットを被って防弾ベストを着たおじさんたちがやってきた。
庭でカズくんのママとおしゃべりしていたママには、ドアに鍵を掛けて締め出したことも含めてこっぴどく叱られたけれど、今はカズくんに感謝だ。いい予行練習になった。
そう思った奈央は迷わず緊急ボタンを押した。
それを押したら犯人に自分の存在がバレるとは考えもせずに。
けたたましいアラーム音が家中に響き渡り、奈央は先週と同じように両手で耳を塞いだ。
「早く来て」
からからに乾いた口の中で呟く。
正面の玄関を睨むように見て、あのヘルメットを被った物々しい格好の警備員たちが入ってくるのを待った。
「奈央‼」
だが現れた人物は、玄関からではなくキッチンから出てきた父親だった。
「パパ?」
「そうだよ、パパだよ」
両手を広げてゆっくり近づいてきた人は、パパにそっくりだけれどパパじゃない。
だって本物のパパはソファーで死んでいるもの!
心の中でそう叫んで、奈央は首を横に振った。
「奈央、起きちゃったのね。大丈夫よ。一緒に帰りましょうね」
父親の横に並んだのは母親そっくりの偽物だ。
本物の母親と見比べても、そっくりすぎて見分けがつかない。着ている服が違うだけで、目元に皺の寄った優しそうな笑顔も奈央には同じに見えた。
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