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何日経ったんだろう。今日もおばあさんは【景】を探している。
僕には気がついたことがある。おばあさんの家は川の近くで、景を探しに川に行くこともある。
それが夜なので、僕は川に落ちないか心配。この川は急に深くなるから危ないんだ。
おばあさんは死のうとしているわけではないみたいで、それは安心だけど、お腹が空いても何も食べないし、水も飲まないし、体がだるくても景を探すのをやめない。こんなんじゃ何があっても全然不思議じゃない。
「ねぇ、景はどうしていなくなったの?」
衣装ケースをひっくり返しているおばあさんに訊いてみる。でも、返事なんていつもない。
だから、今日も返事なんて期待しない。
「ねぇ、そろそろなんか飲もうよ。今日は何も食べてないし、飲んでないよ」
「でも、景くんも何も食べてないよ」
しゃがれた声でおばあさんが返事をした。
「景くんを探すのにおばあさんが具合が悪くなったら、探せないよ」
「直美さんもそう言うよ。でも、じゃあ誰かが探してくれるんだ? 誰も探してくれないよ」
何だか落ち着いているのか、疲れ切っているのか。返事がある。
「景くんはどうしていなくなったの?」
「大きな地震があって…旅行から帰ってこないの…」
・・・大きな地震? それって僕が生まれる前の話…?
「景くん、ずっと帰ってこないの?」
「待っているのに」
静かにおばあさんが泣いている。
「どこにいるの?」
泣きながら、セーターをパサパサと振っている。ねぇ、きっとセーターの中には景くんはいないよ、そんなに小さくないでしょ?
『景くん、どこ?』
セーターを放り投げて、カーディガンに手を伸ばした時に、急に目の前が暗くなった。
ぐるぐると目が回って気持ち悪い。天も地もわからなくなって、真っ暗な穴に落ちていくように、僕は何が何だか分からなくなってしまった。
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