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『どこにいるの? 出ておいで、景くん、出ておいで』  耳障りなザラザラとした抑揚のない声が響く。なんだろう、とても寒くて、眠い。  やっとうとうとしたのに、僕はまた無理やり起こされる。そして、絶望する。  自分の意志ではないのに、この体は押入れの中の古い布団を引っ張り出して、裏にして、表にして、必死に何かを探している。  何かじゃない、【景】だ。  景って誰だよ。  そして、ふと鏡を見る。そこに映っているのは顔色の悪い、しわだらけのおばあさん。どうやらそれが今の僕の姿らしい。でも僕の意志では全く動かない。今だって布団をひっくり返したくないのに体が言うことを聞かないし、景なんて言いたくないのに何度も呼びかける、僕ではない声で。  鏡の中の死んだような目が何かを見据え、布団をかき分けて鏡の前に進もうとして転んだ。 「痛っ、痛いよ!!」  メチャクチャだ。もっとメチャクチャなのは僕はこのおばあさんの中に閉じ込められているということ。 「痛いっ」  足が痛いっ。おばあさん、足を見てよ、痛いよ、こんなに痛いのに動いちゃだめだよ。  それでもおばあさんは這いずって、鏡に向かう。 『あんたっ、景を返してっ』  鏡を睨みつけている。いや鏡越しにおばあさんの中にいる僕を睨んでいるんだ。  僕は景じゃないし、景なんて知らない、隠してもいない。 『返しなさいっ』  鏡にこぶしを振り上げて、何度も叩く。鏡が割れるんじゃないかとヒヤヒヤする。  泣きながら、何度も叩く。僕はおばあさんが疲れ果てて眠ってしまうまで、なす術もない。 『景くん、景くん、どこにいるの? 景くん』  だから、景って誰!?
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