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13~正真正銘の魔女
エルの熱は、次の朝にはすっかり下がった。
「もっとゆっくりしていても良いのよ?」
気をきかせて奥さんはそう言ってくれたが匿っている事がカトリック側に知れては、まずいので二人は先を急ぐ事にして旅だった。
エルとノヴァは現在深い森の中を進んでいる。
「ねぇ、ノヴァの知り合いって仙人なの?」
エルが、草木の中をかき分けながら訊いたのも無理はない。さっきまでは人が通れる道くらいは確かにあってそこをなんとか進んで来ていたのだから。
しかし今進んでいる方向には道と言えるものはなくノヴァがいったい何を目標にして進んでいるのかは、まったくもって検討がつかない。
「仙人ではない……が、正真正銘の魔女ではある……」
ノヴァが、神妙な面持ちでそう言うので思わずエルは、どういう事? なぜに神父の貴方に魔女の友人がいるの? 現在インプだとしてもすごい違和感があるんですけど……
っと、首をひねってエルは考えた。
前方の草の高さは到頭エルの背丈くらいになり、前方を進んで行くノヴァの背中をエルは思わずつかんだ。
「もうすぐ着くからそのまま、ついて来いよ」
そうノヴァが言った時、
ザクッ!
っと、矢が一本足元の地面に突き刺さった。
ノヴァは、矢が飛んできた方向を見
「セリムか? 俺だ。ノヴァだ!」
っと、一声かけた。
すると、高い木上からサッと若いヒョロリとした弓を手にした少年がおりてきた。
「これは……ノヴァ様でしたか! 先ほどは失礼致しました。この度はルナ様にご用でありますか?」
セリムと言われた少年は、こちらに軽く会釈すると丁寧にそう訊いてきた。
「あぁ、私の連れが毒にやられてな。熱は下がったのだが心配だから治療してもらえないかと連れて来たんだ」
「そうでしたか。ルナ様は、屋敷におりますのでご案内しますね」
少年は、ニコリと愛想良く笑うと自分の後についてくるよう促した。歩くこと十分程たったくらいに大きな屋敷が見えて来た。三角屋根の煙突からは白い煙が上がっている。
「ルナ様! ノヴァ様をお連れしました」
「なにぃっ?! そんなバカは私は、知らないぞっ!」
玄関扉の向こう側からは、女性の声がした。
ノヴァは、さっと扉を勝手に開けると
「ルナ姉さん、久々に帰って来たのに酷いな~」
っと、困り顔で苦笑いしたのである。
「お前のようなバカな弟を持った事などとっくに忘れてしまったわッ!」
ルナと言われたスラリとした綺麗な黒髪女性は、ノヴァの顔を見るなりフンッと鼻をならした。
「お姉さん?……」
エルは、チラリと女性に顔を向けながらノヴァの後ろからそう呟いた。
「そっ。この人は俺の姉さんだよ。んでここは、俺の実家。ここで姉さんは、細々と医者しながら暮らしてんだ」
ノヴァがエルにそう説明したところでやっとルナの方は「あら……連れが居たのね」っと言った。
どうやらノヴァの後ろにいるエルの存在にやっと気がついたらしかった。
「まぁ、とりあえず長い話しになりそうですし。お茶とお菓子を出すので座って話しましょうよ」
っと、セリムが場の空気をよんでそう言ってくれたので皆はリビングテーブルにそれぞれついたのであった。
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