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「天さん! 天さん!?」
部屋の中に投げ出され、もんどり打って背中を壁にしたたか打ち付けたがそれどころではない。
痛みを堪えて立ち上がると、彼の元へ駆け寄った。
天さんが部屋の床に伏せたまま動かない。
最悪の事態が頭をよぎって、冷たい汗が背中を伝う。
天使は死んだら消える、彼はそう言っていた。
「イヤだよ……イヤ……」
彼の羽根は少し前からもう殆ど黒くなっていて、先の方に僅かな白さを残すだけになっていた。
あの宝石のような蒼い瞳も日に日に暗くなって、今では暗い紺色だ。
長くないのは最初から知っていたはずなのに……どうしてこんなに苦しいんだろう。
「……まだ……だ……」
彼はずるりと身体を引きずって、ソファに胸を預ける。
背中の羽根が痛むので、そこは彼の定位置になっている。
「なんで無理したの!?」
労りよりも先に怒りが湧いて、つい声を荒げると彼は力なく微笑んだ。
「動けるうちに……サラの……願いを……叶えて……」
「そんなの望んでない! 天さんの命の方が大事!」
奥歯を噛み締めて怒りを押し込めようとするが、涙が溢れて止まらなかった。
「泣かないで……」
吐息と一緒にようやく押し出したような小さな声が悲しくて、命を無駄にする天さんに怒りが湧いて……彼を病気にした全てが、病気に苦しむ彼を追放した天使が許せなかった。
なんで?
自分の命を使ってまで私を空に連れて行ってくれる、そんな優しい彼が何故こんなに辛い目に合わなきゃいけないの?
出来る事ならそこに行って、全てを滅ぼしてやりたい。
「サラ……」
天さんの指先が頬を伝う涙に触れたその瞬間、背中に強い痛みを感じて私は床に転がった。
堪らずのたうち回るけれど、どうにもならずに絶叫だけが口から飛び出す。
「ダメだ!! サラ!!」
痛い、痛い、痛い、痛い!!
床を転げ回る……鉄のような匂いがした。
ぬめりがあって、身体が滑る……
絶叫は既に声にならなかった。
背中が熱くて痛い……
「ゔあぁぁぁぁぁ………」
獣の様な咆哮の後、私は両膝をついて床に座った。
痛みが消えた……?
そう思った直後、今までで一番の痛みが襲ってきて、背中で不気味な音がした。
ミシミシともバキバキともブチブチとも取れる……むしろその全てなのかも知れない。
布の破けるような音もした。
ひどい痛みの中なのにどこか冷静な部分があって、天さんが激しく泣きながらこちらを見ているのに気付いた。
泣かないでと言いたいのに、痛みで声は出なかった。
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