白い天使

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白い天使

目が覚めるとすぐ近くに天さんが居て、子供みたいに泣きじゃくっていた。 いつの間にか意識が飛んでいたようだ。 背中が熱い……ひどく怠くて動けなかった。 「ごめん……サラ。俺が……俺のせいで……」 「てん……さん……?」 ソファに胸を凭せかけてぐったりとしたまま彼に向かって手を伸ばすと、自分の腕が血塗れなのに気付いた。 不思議に思って床に視線を落とせば、辺りは一面血の海だ。 「サラ……俺はお前を……天使にしてしまった……」 首を曲げると、白い羽根が見えた。 あぁ、だから背中が痛かったんだ…… 「お前を愛しいと……思ってしまったから……お前は変身した……天使にしてしまったんだ……」 「天さんが……私を?」 「天使は人を愛してはいけない……愛しいと思うと差別をしてしまうから……天使に愛された者は天使になる。すまない……俺のせいで……」 彼は涙を流してしきりに謝るが、そんな事はどうでも良かった。 「謝らないで。天さんが私をそう想ってくれて、とても嬉しいの。それに、この翼があれば天さんを連れて行ってあげられる」 人でなくなるならそれでも良い。 元々私がいなくて悲しむ人などいないのだ……父はもちろん、友人と呼べる人も、恋人も……ならば私は自分を愛してくれた天さんと共に消えても構わない。 「一緒に行きましょう。天界って何処にあるの?」 「サラだけで行くんだ。俺はもう保たないから……」 「大丈夫、私が連れて行ってあげるから。どう行けばいいの?」 彼は首を横に振った。 私は泥のように重い身体をゆっくりと起こし、彼の両頬を掌で挟んだ。 「俺に触れちゃダメだ! お前はもう天使なんだから、伝染るかもしれない!」 「別に良いよ。そしたら一緒に消えてあげる」 それでもと離れようとする天さんを力尽くで抱き締めて、泣き濡れた瞳を見詰めると、それは既に真っ黒になっていた。 「私も、どこか黒い?」 「いや、サラは白い。栗色の髪に……瞳は空の……あ……お……」 ぱっと部屋に黒い羽根が舞い散った。 腕を回していた骨ばった身体が消えて、身体が前にのめり込んだ。 理解は……暫く後に来た。 行き場のない気持ちが、涙を伴って喉の奥から吐き出される。 言葉にならない痛みは哀哭の声となって部屋に響いた。 その声は尽きることがなくて、幾日も続いた。 天さんが……私を愛した天使が死んだ。 私は彼の本当の名前すら知らぬまま、天使に身を変えた。 今ならわかる。 優しいと言って微笑んでくれた彼の事を、私もまた愛していたのだと。
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