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「はは、……災難だったね、イリス……」
「……」
「そんな顔するなよ。僕は何もしなかったじゃないか。妹は君が僕を誘惑したのだと思い込んでいるけれど……」
「謀りましたね、ミハイル様」
状況が状況だけに、私が一人で被害を訴えられない状況です。きっと彼はわざと、妹を密かに呼んで実力行使したのです。
今、私が酷い目に遭いかかったということを公にしないと彼は思い込んでいるのです。
私は「地味」で「空気」な、大人しい姉でしたから。
「じゃあ、僕は失礼するよ。アイリアを慰めてあげなければならないからね」
ワンピースが破かれた私の肌をちらちらと見ながら、ミハイル様は曖昧な笑顔で笑って去っていきます。
私がふらふらと部屋を出ると、目を赤くして泣いたメイドのキキが馭者も連れ、馬車まで助け出してくれました。
「申し訳ありません! イリス様をお守りしなければならないのに、私は……!」
「私は大丈夫。仕事を増やして悪いけれど、このワンピースを直してほしいの」
「勿論です」
「キキ、震えているわ。……大丈夫?」
「すみません……私は、私は…………」
「貴方も調子が悪いようね」
私は馭者に声をかけました。
「私とキキを送り届けたら、その足でこちらの病院へ。紹介状は持っております」
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屋敷に呼んだ医師が帰宅した頃には、すでに夕方になっていました。
揉め事の内容が内容ですので、今大事にする訳にはまいりません。私は仔細手筈を整えた上で、あとは何も考えず休養を取ることにしました。
「今日やらなければならないことはもっとたくさんあったけれど……もう無理ね」
幸運にもワンピースは縫い目の糸がちぎれただけなので、丁寧に補修すれば元通りになるとのことです。
「疲れた……」
実家のために帰ってきて、家のために寝る間を惜しんで家のことをして。
それで大切なものを破かれて……どうしたら、こんなことに。
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翌朝、妹は悪びれもせず私にとんでもない要望をもちかけました。
「お姉様が持っていったお母様の形見をちょうだい。質に入れないとお金が足りないの」
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