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 妹の訴えに私は呆れ果ててしまいました。 「ルーカス様もお金を出したわ。親戚の方々もお金の援助をくださったし、王宮も税金の納付の期日延長と分割を許してくださったわ。それなのに、まだお金が足りないの?」 「そりゃあ入り用ですから」 「……」 「お姉様。このままじゃ相続税も、領地の維持費も捻出できないの。お姉様はカレリア家を守りたいのよね? だったらお金を出して頂戴よ」 「………………貴方は……恥ずかしくないの?」 「勘違いしないで、お姉様。たかが元平民の妻になってしまったのはお姉様のほうよ? 私は貴族の娘で、婚約者も侯爵位の継承予定者なの。むしろカレリア家の為に援助できることをありがたいと思って頂戴?」  お母様の実家が没落してしまうのはお母様に申し訳が立ちません。  けれど、お母様の形見が湯水のように換金されていくのも辛いです。 「わかりました。……貴女がしっかりと婚約披露パーティを済ませて、無事に嫁いだところを見届けたら、少し考えます」  私の言葉にアイリアは声をあげて笑います。 「やったわ。嬉しいわお姉様。昨日のミハイル様のこともチャラにしてあげる」  思わず耳を疑いそうになりました。 「……貴方は、あれを見てもまだミハイル様との結婚をしたいと思っているの?」 「何よお姉様、嫉妬?」 「アイリア。落ち着いてよく聞いて。正式に貴方とミハイル様との婚約発表パーティが行われていない、今ならまだ間に合います。彼は――」 「うるさいわね!」  妹はつんざくような金切り声をあげて、金髪をぶんぶんと振り乱します。 「っ……!」 「うるさいうるさいうるさい!!! 私はお姉様と違って貴族と結婚して、元平民の妻になんか転落しないの!」 「アイリア……」 「お姉様もわかってるでしょ? どんなに令嬢だと持ち上げられたって、貴族と結婚しなければ女は平民になっちゃうの。爵位も継げないし、貴族との結婚が一番よ。それも一代限りの男爵なんかじゃない、きちんとした貴族とね。自分がお金で身売りさせられたからって、私の幸せを邪魔しないで」  妹は一気にまくし立てます。  その血走った目に、私は一瞬だけ――妹への同情心が湧きました。  生まれ持っての侯爵令嬢だった私は、貴族という爵位が良いことばかりではないと知っています。場合によっては人生の足枷となることも。  しかし、妹は生まれ持っての貴族ではありません。  父が後妻としてどこかから連れてきた女性が身ごもっていた娘。私の義母である母親から、ずっと貴族の爵位を逃さないように言い聞かされて生きてきた子です。貴族に認知させることができたから、あなたは令嬢でいられるのだと。  そういう妹に「身分だけが幸せではない」と伝えても、聞いてもらえないのは仕方ないことかもしれません。 「……伝えましたからね」  諦めた私は最後の通告をしましたが、結局彼女は何も変わりませんでした。    私はもう、妹が言う通り、カレリア侯爵令嬢ではありません。  ルーカス・ストック男爵の妻。  もう、いつまでも実家の『空気』として支え続けるのを辞めることにします。
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