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師と弟子(一)
晴道と玉瀬が師弟となって、さらに幾つか季節がめぐった頃だ。
この日は湖畔近くで野宿だったが、玉瀬もすっかり慣れた様子である。歩き疲れたのか、腹を満たすと早々に寝入ってしまった。
空には月、夜の帳が下りている。小さな火がぱちぱち爆ぜる音が、晴道を穏やかな気持ちにさせる。
その手が、ふとあるものに伸びた。いつぞや師から渡された文だ。
(ずっと読めずにいたけど……)
今ならもう、問題ない気がした。そっと開いてみる。
ごくごく短く綴られた文は、いかにも、あの人らしいと思った。豪快な文字がひどく懐かしい。
ふっと緩んだ表情は、しかし、すぐに曇っていく。大方読み終えた頃には、視界がじわりとぼやけていた。
(行き先って……そういうことだったのか)
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