師と弟子(一)

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ

師と弟子(一)

 晴道と玉瀬が師弟となって、さらに幾つか季節がめぐった頃だ。  この日は湖畔(こはん)近くで野宿だったが、玉瀬もすっかり慣れた様子である。歩き疲れたのか、腹を満たすと早々に寝入ってしまった。  空には月、夜の(とばり)が下りている。小さな火がぱちぱち()ぜる音が、晴道を穏やかな気持ちにさせる。  その手が、ふとあるものに伸びた。いつぞや師から渡された文だ。 (ずっと読めずにいたけど……)  今ならもう、問題ない気がした。そっと開いてみる。  ごくごく短く(つづ)られた文は、いかにも、あの人らしいと思った。豪快な文字がひどく懐かしい。  ふっと緩んだ表情は、しかし、すぐに曇っていく。大方読み終えた頃には、視界がじわりとぼやけていた。 (って……そういうことだったのか)
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!