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老齢の師より(一)
暖かな陽光が差す町中に、旅する男の姿が二つ。
「俺ぁ、隠居することに決めた」
白髪混じりの男が告げるや、連れの青年は顔を曇らせた。
「……なんですか、急に」
「急でもないわな。旅を続けるには、年を食い過ぎちまった。ってなわけで、明日、この町を出たら互いの道を歩もうや」
「え……待ってくださいよ。奔放すぎやしませんか? 心の準備も出来やしない」
本当に不意をついた話で、青年は明らさまにに不服な表情をした。
そんな青年を前に、老齢の男は豪快に笑った。
「心配するこたぁねえよ。俺のもてるもんは、全部お前に伝えてきた。独り立ちには遅いくらいだ」
「そんなこと言ったって……いきなり一人で、どうすれば……」
「何言ってんだ。お前は今までと同じように、気の向くまま旅を続けりゃいい。ずっとそうしてきたじゃないか」
獅子は生まれたばかりの子を谷に落とし、自力で登ってくるのを待つらしい。そんな荒療治に比べれば、全てを教えてから旅立たせる自分は大層優しいと言う。
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