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老齢の師より(二)
強引に話を進めて、男は文らしきものを差し出してきた。
「すぐに読むんじゃねえぞ。そうだなあ……お前に弟子を取るくらい余裕ができたら、その時開けてみろ」
青年は、半ば突きつけられたそれに目を落とす。男の心は変わらぬようだ。
それでも、どうしても口を突いて出た不安があった。
「もう……会うこともできないってことですか」
男の自由さには振り回されるばかりだったが、長年慕ってきた存在だ。これほどあっさり手をはなされると、正直胸が疼く。
弱々しい言葉をこぼすと、男は皺を刻んで柔らかく笑んだ。
「行く先はな、決まってる。だが、お前がまず目指すのは一人前になることだ。だから、今すぐに教えるつもりはない。俺の行く場所は文に記してあるから、いずれ会えるだろうさ。まあ、のんびり来いや」
そう言う男の声は、いつになく優しい。青年は、泣いてたまるかと唇を噛んだ。
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