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ある申し出(三)
「おや。陽次郎君は、確かに優しすぎるところはあるにせよ、臆病じゃないですよ」
会ったばかりにもかかわらず、晴道がそう言い切るので、陽次郎は密かに胸を熱くした。
「得体の知れないものを、慎重に見定めようとしてきただけでしょう。彼は、いざという時、周りの人を守るために動ける子だと思います」
父母が、言われてみればと顔を見合わせる。
昔からどれほど弱腰な言動をしても、決して人の後ろに隠れず、一人で逃げ出すこともなかった、と。
「……昨日も、陽次郎が止めてくれなかったら、おれはここにいなかったかもしれない」
続けて呟いた利一郎へ頷いて、晴道は告げた。
「今ここで、弟子に定める気はありません。半年経ったら、一度戻ってきます。先々のことはその折りに」
そう言った晴道と、次いで陽次郎も頭を下げる。
家族は、しばし、思わぬ道を行こうとする陽次郎を見つめてきた。
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