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仕来たり(三)
『お前は家を嫌ってたから、元の名を捨てる気でいるかもしれねえが。俺は、名ってのは言霊だと考えててな。これまでのお前を形づくってきた、お前の一部なわけさ。だから、要らんと思っても捨てることはできん。もう見たくないってんなら、それでも構わねえから、ちゃんとどっかに仕舞っとけ』
懐かしい言葉を思い出し、晴道は小さく笑んだ。
そして、少年に声をかける。
「名は言霊だと、俺の師が言っていた。新しい名をもらったからとて、切り離せるもんじゃないってな。だから、今まで共にあった名も手放す必要はない。忘れないように、大事にもっておけばいいさ」
思いがけぬ言葉に、少年は驚いたように顔を上げた。
ややあって見せたのは、年相応の、そしてどこか泣き出しそうな、そんな満面の笑みだった。
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