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師と弟子(二)
あの時、師の言葉を聞いて、少し妙だとは思ったのだ。
大半の時を共に過ごしていたのに、自分の知らぬ間に如何にして、安息の地を定めたのかと。
だが、ようやく分かった。
(病だったなんて、少しも気づかなかった)
師は、自らの命が長くないと悟っていたのだ。
それを隠し通したのは、晴道を旅立たせるためだった。病のことを知れば、晴道は頑として師のそばを離れなかっただろう。
しかし、師としては弱っていく自分の姿より、少しでも多く、世を見てほしかったのだ。そこには心動くものがたくさんある。人の一生では到底時が足りぬけれど……だからこそ、晴道の歩みを止めたくはなかったらしい。
それに、世話をされるのは苦手な人だ。そのため、先の見えた余生は一人のほうが気楽、というのもあったと思う。
(まったく、わがままな人だ。こちらの意志を、まるっきり聞いてくれないなんて)
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