師と弟子(二)

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ

師と弟子(二)

 あの時、師の言葉を聞いて、少し妙だとは思ったのだ。  大半の時を共に過ごしていたのに、自分の知らぬ間に如何(いか)にして、安息の地を定めたのかと。  だが、ようやく分かった。 (病だったなんて、少しも気づかなかった)  師は、自らの命が長くないと悟っていたのだ。  それを隠し通したのは、晴道を旅立たせるためだった。病のことを知れば、晴道は頑として師のそばを離れなかっただろう。  しかし、師としては弱っていく自分の姿より、少しでも多く、世を見てほしかったのだ。そこには心動くものがたくさんある。人の一生では到底時が足りぬけれど……だからこそ、晴道の歩みを止めたくはなかったらしい。  それに、世話をされるのは苦手な人だ。そのため、先の見えた余生は一人のほうが気楽、というのもあったと思う。 (まったく、わがままな人だ。こちらの意志を、まるっきり聞いてくれないなんて)
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!