師と弟子(三)

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師と弟子(三)

 あれから何年も経っている。  師は、へ、もう逝ってしまっただろうか。ゆっくり来いという言葉の意が、ようやく(かい)せた。  嗚咽を殺しても涙は止まらぬが、最後の一文まで追った時、思わず口元が(ほころ)んだ。 ――自慢の弟子へ、出会えたことに感謝する  たったそれだけ……だが、この一言に詰まった想いは計り知れず。 「そんなこと、面と向かっては言ってくれなかったのになあ。好き勝手に振る舞ってるようで、不器用なんだから」  ふふと笑いが(こぼ)れた。一方で、目元は何度拭っても、最早あまり意味をなしていない。今、自分はさぞ滑稽な顔をしているだろう。 (師匠。俺こそ、あなたに鍛えてもらえて光栄でした)  心のうちでそう告げて、晴道はあどけなく眠る玉瀬を見やった。  師のように、自分もこの子と新しい絆を結んでいこう。時をかけて、ゆっくりと……。  そのための道を、再び行けるこの身はきっと、大層な贅沢者(ぜいたくもの)に違いない。 【完】 ご覧いただき、ありがとうございましたm(__)m 少し長めの回想編になってしまったので、お楽しみいただけたか不安もありますが……。 彼らが共に歩み始めたきっかけを、こうして書くことができたのは、とても嬉しいです!
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