揚げ物に塩

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 考えてみれば、こんなにも面倒臭くて色々と足りていない不出来な夫に、よく付き合ってくれたものだと、少し、涙が出てきてしまった。  彼女はずっと何も言わなかったけど、おそらく苦労を掛けていたのだろう。  ……本当に申し訳ない。   僕には度量も決断力も勤勉さも無ければ、思慮深さも勇気も足らない。全てが足らない。にも関わらず、妻はずっと連れ添ってくれた。  でももし僕に、その内の1つだけでも足りていたら、何かが変わっていたのかもしれない。  彼女はあの時、不足した調味料を買いに行くと言って出ていった。  もし僕に決断力や勤勉さ、思慮深さや勇気がもう少しだけあれば、そもそも調味料なんて有るもので済ましていたのかもしれない。  それに、それこそ何らかの天啓も下って、彼女は事故になんて()わなかったのかもしれない。  それはもう、今更どうしようもない事だとわかってはいても、でも出来れば、もう少しだけでよかったので、感謝を伝える時間は欲しかった。  ……何を食べても美味しくなんてないのに、どうして僕はこんなことで悩むのだろう。  それでも料理は、可能な限り敬意を払って、美味しく食べるべきものだ。  それが、いつも美味しい料理を作ってくれた彼女へ、唯一感謝を伝える方法であるような気もしている。  冷めてはいけないと急いで頬張ったトンカツは、塩を付けてもソースを掛けても、それでもやはり同じ味がした。 〈了〉
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