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数日後、再度同じ定食屋へ赴く。
何度も見たメニューの羅列に、円周率でも延々と唱えられているかのような錯覚を起こすが、先の反省も踏まえ、僕はトンカツ定食を注文した。
トンカツであれば、予めカットしてあるはずなので肉汁が飛び出る心配もないし、基本的にはトンカツソースくらいしかソースは無いはずだ。僕の中ではウスターソースもトンカツソースも同種であるので、悩む事もない。あるとすれば味噌、あるいは和風ソースという選択肢だが、みぞれカツも味噌カツも別メニュー扱いだったので、この場合は除外される。万事抜かりは無い。
もう天啓など、当てにしない。
待っても待っても下らなかった天啓なんて当てにせず、僕はこの不遜で無慈悲な世の中を独力で生き抜いてやる。
そう思っていたら、注文を受けてくれた店員さんに告げられる。
うちのトンカツ、塩とワサビが合うんですよ、よければ通常のトンカツソースと一緒にお持ちしましょうか、とのこと。
……どうしてそういうことを言うのだろう。
断りたい。
でなければ、また僕は普通のソースと塩の狭間で揺れ動くことになる。
是非ともお断りしたい。
しかしこういう時、断る勇気が、僕には無い。
人の善意を、無下に断る勇気が僕には無い。
お願いします、と僕は頷いた。
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