「かえるよ、君の隣まで。約束」

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オリヴィエは、1人外に出ていた。 彼女の目の前には一つの墓石がぽつん、と置かれている。 「……」 彼女は、無言で墓石の前に花を置いて、まるで愛おしい人を触るような手で墓石を撫でた。 「エーヴェルが、帰ってきたわ……私のこと、覚えていないけど、帰ってきてくれたわ……」 ぽろり、と銀色の瞳から雫が溢れ落ちる。 それはまるで宝石を思わせるような美しさを放っていた。 「約束、本当に護ってくれたのね……」 きゅっ、と唇を噛み締め、目を閉じると優しくも懐かしい過去の記憶がまるで昨日のように脳裏に浮かび上がる。 「かえるよ、君の隣まで。約束しよう」 「ええ、待ってるわ」 「この魔法は確実じゃないから、全ての記憶がないかもしれない。それでも、もし君と過ごした日々の記憶が戻ったらその時は――」 「ええ!待ってるわ!今度こそ、一緒になりましょう?」 「ああ!約束だ」 そうして、オリヴェルとエーヴェルは約束を交わした。 その後、程なくしてエーヴェルはこの世を去った。 元々、病に侵されていたこともあり、約束を交わした数日後に息を引き取った。 オリヴェルは、彼と約束を果たすために彼の魂を探し続けた。来る日も来る日も。魔法を使い、彼を探し続けた。 そして、ようやく彼の魂を見つけたが、彼の言う通り記憶は持っていなかった。 彼が確実ではないと口にした魔法は、彼の魂に目印を付けること。それさえあればオリヴェルは多少は見つける手間がいらない。 目印自体は付けられていたが、それによって魂に傷がついてしまった。そのため、エーヴェルは紅谷要の記憶しか、もっていないのだ。 「ふふっ……あなたほどの魔術師でも、出来ないことがあったなんてね」 エーヴェルは、当時の国で一二を争う程の腕前を持つ、魔術師だった。 だが、魔術師と言ってもただの人間。 人間ならば時の流れに逆らうことは叶わない、そう、自分と違って…… 「魔女でもできないことは山ほどあるのね」 同じ時を生きたいと願っても、人と魔女ではあまりにも時間の流れが違い過ぎる。 愛した男と共に死ねたら、と何度願った事か。 「……どうやったら、記憶を取り戻してくれるのかしら?なんか決め手となる言葉がありそうだけど……」 こしこし、と涙を拭いて、オリヴェルはすっと前を見据えてそう口にした。 泣くのも、嘆くのもやめよう。 これからを見据えて動いていかないと、いつまでたっても彼との生活など見えてこない。
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