夜のカラス

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「ギャー!ギャー!」 「すげー(鳴き声の)カラスだな」 おれは100円玉を自販機に投入する。いまどき100円でオロナミンCが買えるこの自販機。詳細な場所は教えるつもりはない。 自販機までの距離は歩いて5分ほどである。しかしなぜか今夜はやけに人とすれ違う。 ここに来るまでに695人とすれ違った。 彼らは口々に「道徳の教科書」「道徳の教科書」と呟いていた。 なんか彼らは、道徳の教科書にあったお話にすごく違和感があったようだ。 言われてみるとそうかもしんない。 近年は道徳という教科にに点数をつけるという意味不明なことさえあるらしい。 しかも近年の道徳の教科書に載っているお話は、道徳と称して「忖度」や「同調圧力」を押し付けるような内容になっているのではないか? 695人の彼らのお話を聞いて、なんかそんな気になってきた。 三島由紀夫は『不道徳教育講座』を書き、西部邁も道徳の本を書く際には自らの不道徳を告白するという書き出しで書いている。 うまく言えないが道徳と不道徳は表裏一体なイメージがある。 文学ならドストエフスキーの『罪と罰』もあるし、ドラえもんのような子ども向けSF作品にさえ道徳を裏から考えさせる要素はあるんではないか? 人は都合のいいリクツに安住してしまう。だからノイズが必要なんよね。と考えていたら、いつの間にかおれはたくさんのカラスに囲まれていた。 あとから確信したが先ほどの695名は幽霊だった。(なにに殺されたのか?) カラスたちは次々におれに訪ねてきた。 「お前、異世界転生したくないか?」 「異世界転生すれば、お前の人生はベストセラーだぞ」 「向こうでは思い通りだぞ!」 おれは拒絶した。 「嫌だ!」 おれは走り出した。気づくとなぜか自宅と正反対の方向に逃げていた。 大抵の逃亡犯は追い詰められると見当違いな方向に逃げて間抜けにも捕まるという、なにかのマンガで読んだ知識を思い出した。(それが本当かはわからない) 逃亡犯だと?おれの罪とは一体?(やっぱストーリーを盛り上げるなら、クライム&サスペンスやろ。ハリウッド映画を見ながらそう思った)
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