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結翔の表情 ※
ベッドに座っていると、堀川が濡れたジャケットを脱がせてくれた。ハンガーラックに向かう後ろ姿を見ていると、ふいに我に返って、公衆の面前で何てことをしたのかと恥ずかしくなってくる。
冷静になって考えれば、もっと他に好きだと伝える方法はあったはずだ。少し落ち着いてきたとはいえ、性的興奮を示した下肢の間抜けぶりと、ホテルに付き合わせている事実に堀川への申し訳なさが先立った。
――消えてしまいたい……っ!
堀川から返事はもらっていない。しかし、聞くの前に一度落ち着きたかった。勃ったままだと気が散る。
「風呂入んの?」
バスルームを目指すと、堀川の後ろを通り抜ける前に肩を掴まれた。
風呂ではなく自慰だとは言えず、思わず声が裏返った。口をぱくぱくさせていると堀川の視線が下肢に向けられ、思わず前屈みになる。
「下心があってホテルに入ったのに、一人で抜かせないからな」
「し、下心……」
「この前だって、その前の店でだって、俺がどんだけ我慢してたか」
ベッドに連れ戻され、押し倒されるまま堀川を見上げた。両手で肩を抑えられて逃げられなかった。胸が張り裂けそうなほどうるさい。
「体なら信じられるかって訊いたよな?」
「うん……」
「焼き肉に行った日、俺には脈がないんだと思ったんだよ」
「俺、好きだって言ったのに?」
「酔った勢いでキスしてきた後だったから、エロいことに目覚めて体目当てかと思って。俺が下手に手ぇ出したのが悪いんだけど、体質のことも知ってるし都合が良いからかと……」
「都合って、好きだからなのに……」
「悪かった。自分が適当なことばっか言ってたから、疑り深くなってたんだ」
「だから、それは前の堀川じゃないの?」
バツの悪そうだった顔が崩れていく。力が抜けたのか、結翔の肩を抑えていた手は、いつの間にかシーツの上にずれていた。
「堀川?」
「いや、まだ草薙限定」
ベッドに肘をつく恰好で見下ろされるとお互いの顔が近い。至近距離で目を見つめ合うと照れくさくなってきて、どちらからともなく目を逸らした。
「店、戻らなくていいの……?」
「いい。今訊くな。……何?」
「ううん……、嬉しいなって。俺、今日は久しぶりに堀川と二人になれるって楽しみにしてたから」
言っていて恥ずかしくなってくる。
「俺、堀川の下心、知りたい」
「どスケベでも?」
「知りたい。ただの同僚相手にあんなすごいことできるなら、好きな相手にはどうなるんだろうって」
訊くと、苦笑した堀川の顔が下りてきた。
「それは、お前がただの同僚じゃなかっただけ。最初から意味わかんねーくらい可愛かったよ」
最初っていつだろう。確かめたかったが言葉にできなかった。
前髪を分けて額にキスが降ってくる。堀川の唇は眉間を辿り鼻梁に。そして唇に重ねられた。
「……ん……っ」
キスするとわかっていても驚いてしまって息が漏れた。堀川の柔らかい唇が緊張を宥めるように結翔の唇を啄む。体から力が抜ける頃には、結翔は自ら唇を薄く開いていた。
深くなっていくキスに、鼻から漏れる息さえ熱っぽくなる。口腔に沈み込んでくる舌に舌をからませながら、ぼーっとしてきた頭で堀川の首に腕をまわした。そのまま背中にしがみつくと堀川の唇が首筋に下りる。
「ん……」
慣れた手つきでシャツのボタンが外されていく。露になった肌を熱い手のひらが撫で、その跡をたどるように唇が這い下りる。堀川の指先が淡く色づいた乳首を掠めたとき、結翔の体は少し過剰にびくついた。
「……っ」
少し触れただけなのに、肌が粟立つほどの違和感だった。心許なくて、できればもう触れてほしくない。
「そこ、いやかも……」
「かも?」
結翔は堀川に訴えたが、その頼みは却下された。堀川は胸の尖りに口づけると、ちゅっと音を立てて吸い上げた。恥ずかしく膨らんだ突起を優しく噛んで虐め、舌先で転がして慰められる。
「いや…っ、だって、ぁ……っ」
唇から逃げようとすると、空いた乳首を指で捏ねられた。
「ん、ふ…ぅ、ん……っ」
「この反応はどっち?」
悪戯っぽい顔で堀川が顔をあげる。
「嫌ってのが嘘で勃ってんの? それとも、嫌なくらい気持ちいいから勃ってんの?」
「あ…っ、んっ……」
スラックスの上から下肢の膨らみを撫でられる。先程まで少し落ち着きを取り戻していたはずが、また、布越しでもはっきりわかるほど形を変えていた。
「嫌って言いたくなるくらい感じるってことで良いの?」
確かめるように服を脱がされ、泣き濡れた性器を堀川に見られれば、乳首への愛撫が悦いのか嫌なのかなんて、どちらでも構わないように思えてくる。
唾液で濡れた乳首を齧られ、結翔は体を捩った。
胸で感じる――。そう認識すると、与えられた刺激は下腹の疼きに直結した。
「そう、なのかも」
「かも?」
「あっ……、っ、ちがっ、そう! ……っ、っあ、ん」
「ベッドの上だと全部俺の良いようにとれて、なんか騙してる気分になってくるな。嫌なときは嫌って言えよ」
堀川が苦笑する。
「でも、何を言っても、体は堀川を好きだって言うから」
キスされると悦び、嫌だと言えば堀川に真実を訴えるように体が興奮する。結翔の体では堀川への気持ちを隠せない。
ヘッドボードに少し手を伸ばせば、部屋の明かりを調整できる。しかし、お互い言い出す余裕はなかった。煌々とした照明の下でシーツの波に裸体を横たえて両膝を抱える。
自ら服を脱ぎ、結翔の足の間でゴムを装着する堀川も、熱っぽい息を吐いて余裕がなさそうだった。
これから挿入する屹立は指よりもずっと大きい。ゴムの膜越しにも血管が浮いて脈打っているのがわかる。中に迎え入れたことはないのに、その質量と与えられる快感を期待して喉が鳴った。
ひくつく泥濘に先端を宛がい、塗りつけた結翔の体液を馴染ませるように滑らかな先で後孔を上下に撫でられる。ぐぷっと淫猥な音を立てて隘路を進んでくる昂ぶりを、結翔は息を詰めて受け入れた。
「……っ、ぁっ…、ぅ……」
「痛くねぇ?」
「ん……っ、ん……っ」
十分慣らされたおかげで痛みはない。ただ、初めての行為に体が軋んでいた。軋みながらも、堀川をもっと奥へ奥へと誘うように、内側の襞が屹立に絡みついているのがわかる。
すぐにでも動きたいはずなのに、堀川は結翔が落ち着くのを待ってくれていた。眦にキスを落としたり、萎みかけていた結翔自身を摩ったり。口が寂しくて上顎をあげると、意図に気づいて唇をあやしてくれる。舌を絡め合いながら、体がどんどん堀川に馴染んでいくのを感じた。
「少し、動いてみて……?」
「最初はゆっくり動くから」
「うん……」
言葉の通り、本当にゆっくり中を擦られた。
「っ、ぁっ、ひぁ、……ぁっ!」
一撫でされるだけで重く鈍い快感が押し寄せてくる。
「大丈夫か?」
「は……、ぁ、ん、大丈夫」
脚を担がれ、少し腰が浮いた状態で続けざまに揺すられ、結翔は後頭部をシーツに押しつけた。
「っ、草薙……」
「あ……っ、ぅ、あっ、あん…っ」
抽挿を繰り返しながら、堀川が雁で結翔の弱い箇所を捏ねていく。胡桃のようなそこを押されるたびに、息ができないほど気持ち良かった。内側から快感を押し出そうとするように、結翔の鈴口からは透明な蜜が零れて糸を引く。薄い胸に雫が垂れていた。
「……めっ、だめ、すぐイ……っ」
「イッていいから」
目の前の両肩に縋りついた。堀川の動きに合わせ、腰が揺れ始めるのを止められなかった。与えられる快感を深追いするように腰がかくかく動く。
「あっ……あっ……」
「ちゃんと悦さそうだな」
「んっ、いい…、もちいい……っ、堀川は?」
「俺もすげぇ悦い……」
自分の体で堀川が感じてくれている。それが嬉しくて、穿たれながら中をきゅぅっと締め付けていた。堪えきれず結翔の性器が弾ける。
「っ、は、あ……、ごめ……」
一人で果ててしまった。後孔を慣らされているときに一度吐き出したから、これで二度目。堀川は堪えたようで、耳元で熱い吐息が聞こえている。射精後の体はどこも敏感で、すぐに動くと結翔がきついからと待ってくれている。
「堀川……、俺、今どんな顔してる……?」
「可愛い顔?」
「そ……っ、ういうのじゃなくて、その……」
堀川の目に自分はどう映っているのだろう。かつて見た陽翔と同じような、恍惚とした顔をしているのだろうか。
「ああ、弟と同じ顔してるか気になる?」
察しの良い堀川が言う通りだが、言い当てられると恥ずかしくなる。こんなときに自分の顔を気にするなんて――しかも、記憶の中の陽翔が浮かぶなんて、おかしな性癖でもあるのかと思う。
「鏡の前でやる? そしたら、顔だけじゃなくて、草薙のいやらしいところ全部見せるけど、いいの?」
「え? ――んぁっ!」
ずるりと昂ぶりを引き抜かれて声が出た。体を反転させられ、背中を向けて堀川の上に座らされる。下から体を串刺しにされたような衝撃だった。
「ひっ、ああ……っ、ぁ…っ」
「っ、すげぇ、締まる……っ」
先程まで受け入れていたとはいえ、自重で深くまで飲み込んでしまい、結翔は後ろを向いて堀川の胸に縋った。
最奥に堀川が届いているのを感じる。滑らかな先端が奥を掠めるだけで、目の前がちかちかして中が窄まる。下腹の熱がまた息づく。堀川の質量も嵩を増しているようだった。
「ん……っ、ゃ、ああ……っ」
小さく体を揺すられ、喘いでいる間に堀川の両膝で大きく開脚させられる。心許ない恰好に戸惑っていると、耳を甘噛みされて肌が震えた。
「ほら、想像してみ?」
「へ……?」
「顔赤くして、目ぇとろんとさせてるとこだけじゃなくて、俺が弄りすぎてちょっと腫れてるこことか」
堀川の手が両胸の尖りを引っ張る。
「イキ過ぎて涎が止まんなくなってるこことか」
胸から鳩尾、臍、その下の茂みを撫でて、性感を煽るような手つきで性器を握られる。
「あっ、やめ……ぁっ」
「小さい尻なのに頑張って俺を咥えてるこことかも全部」
手を掴まれ、結合部を撫でるよう誘われる。限界まで拡げられたそこは、どちらのものかわからない露で濡れそぼっていた。おまけに堀川が腰を引くと、結翔の襞は咥えていた屹立を引き止めようと健気に捲れてひくつく。
「いいの? 見んの?」
耳に声を吹き込まれ首を振った。自分の痴態を想像しそうになって焦った。
「やっ、やっぱいい! いいから……っ」
「そ? 興奮はすっかもしれないけど」
「いい……っ!」
半ば叫ぶように言うと、堀川は意地悪く喉の奥で笑っていた。
「まあ、俺しか見なくていいよ。ちょっとエロ過ぎるし、草薙が俺の顔見るたびにヤラしい気分になったら困るし」
堀川はそう言うと、結翔に両手をつかせ、後背位になって律動を再開した。中をぐっと突き上げられ、思わず体が前進する。しかし、逃げようとすれば腰を掴んで引き戻され、お互いの体は一層強くぶつかり合った。
「ひっ、あ…、あん……っ」
目の眩むような快感に嬌声が止まらない。何度も中をかき混ぜられて、結翔の中は堀川の熱で溶けてしまったんじゃないかと思うほど感覚が曖昧だった。快感しか拾わない。
「っも、どう、しよう……っ、本当に、いやらしい、体に、なったか…も…っ、しれない……っ」
まともに回らない舌で、泣き言めいた声を上げる。堀川は汗ばんだ胸を結翔の背中に寄せ、甘く掠れた声で結翔を唆した。
「いいじゃん。俺しか知らないことが増えた」
「な……っ」
ずるい。嬉しそうな言い方をされると、本当に良いような気がしてくる。
堀川も限界が近いのか、それ以上の話は続けられなかった。ベッドの軋む音と肌のぶつかる音に合わせ、甘ったるい声で短く啜り喘ぐことしかできなかった。お互いに欲を吐き出すまで、そう時間はかからなかった。
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