体が君を好きと言う

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体が君を好きと言う

 いつの間にか気を失っていたらしい。目覚めると堀川の腕の中だった。寝ている間に体を拭いてくれたらしく、寝巻用の浴衣を着せられていても肌に嫌な感じがない。  ヘッドボード側の壁に埋め込まれたデジタル時計は夜中の二時で、気兼ねなくもうひと眠りできる時間だった。  喘ぎ過ぎた所為か喉が渇いている。  結翔は眠る前に水を飲もうとベッドから足を下ろした。 「ん……」 「あ、ごめん。起こした?」 「何時……?」 「二時過ぎだよ。堀川も水いる?」  上体を起こしていたのに布団の中に引き戻される。空調の効いた室内で人肌に温まった空間は極楽だ。おまけに、堀川の胸に鼻先を押しつけていると、くすぐったがった堀川がミネラルウォーターを取ってきてくれる。 「体、痛いとこは?」  結翔は喉を潤しながら首を振った。繋がっていた場所は熱を孕んでいる気がするし、股関節にも違和感がある。しかし、優しくしてくれたおかげで、体に痛みはなかった。 「じっとしれてば何も」  堀川の手が頬を撫で、結翔の手からペットボトルを奪っていく。それを一口飲むと、堀川は結翔を押し倒しながらサイドテーブルにペットボトルを避けた。  浴衣をはだけられ、脚の間に体を挟み込まれる。数時間前の情事を思い出し、結翔は思わず膝を閉じた。 「でっ、でも、今日はもう無理……っ」 「わかってるって」 「わかってるなら、ちょっと……っ!」  もうセックスはできない。そう言っているのに、堀川は結翔の膝を開き、指先で柔らかい性器をふにふにと撫でてくる。性感を煽るような手つきではないが、陰嚢を押されれば嫌でも声が出る。 「ここ、カラでも反応すんのかな?」 「へ?」 「頻繁にやれば草薙の悩みも解消すっかなって思って」  そういえば、前にも似たようなことを言っていた。ちゃんと抜いているのか、と。 「何か言ってみろよ」 「何かって? 嘘を、ってこと?」 「そう。あ、でも俺絡みはナシな? 嘘って思ってても聞きたくねぇし、何言われても嘘か本当かわかんなくなって落ち込みそうだから」  本当に堀川の発言だろうか?  当の堀川は真剣なようで、真面目な面持ちでこちらを見おろしている。その顔が何だか可愛く見えてしまって、結翔は笑って堀川を抱き寄せた。 「嘘つけないってわかってるのに」 「カラだとわかんねぇだろ」  考えたところで、とっさに嘘なんて出てこない。  結翔は唸りながら堀川の背中に腕をまわした。  ただ、少し腰が引ける。あまり密着していると、いくらカラになるほど射精したあととはいえ、快感を覚えた体はまたしたくなってくる。 「あ」 「何?」 「誘われた返事。俺も、堀川と一緒に売買に行きたい。でも、営業じゃなくて宅建士として移りたくて、試験には一回で合格してみせるから、その、待ってくれないかな?」  結翔がそう言うと、堀川は複雑な顔をした。  薄く唇を開いて何か言いかけ、やっぱり言わない。それを何度か繰り返している。 「それは――、もちろん、待つけど……いや、どっちだ? 嘘じゃないよな?」 「うん、嘘じゃない」  深く息を吐く堀川が可愛くて、思わず笑ってしまった。 「っ、もう、ビビらせんな……。そんな嘘言うわけないのに、今言われたら……」 「ごめん。だってそんな、考えたって出てこないよ」  堀川への嘘はこれまでの二回だけでいい。堀川と親しくなるために吐いた嘘と、好きだとわかってほしくて吐いた嘘。  好きだと伝えられる関係になった今、吐きたい嘘はない。  口で何を言ったって、体が堀川を好きだと言うのだから。 了
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