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秘密の共有
呼吸が整い、冷静に状況を把握して青褪めた。
「ごごご、ごめん!」
洗面所から戻ってきた堀川に、床に額がめり込みそうなほど頭をさげた。不可抗力とはいえ、とんでもないことをさせた。
「別に。そもそも俺が勝手に触り始めたし」
「でも、男相手にこんな……、ごめん……」
「男相手ってのも別に。俺、バイだし」
「バイ……」
「そう。男も女もどっちもイケんの」
「どっちも……」
「他のやつに言うなよ? ただでさえ枕してんじゃねぇかって噂されてんのに、バイなんて知れたら、もっとウゼェこと言ってきそうだし」
「言わないけど……」
「お前、とりあえず下履けよ」
「あ、ごめん……っ」
「どんくせぇ……」
慌てて下着とリラコを履き、正座に戻る。
「陰口言われてるの気づいてたんだ……」
「気づかないわけないだろ、あの狭い職場で」
「傷ついたよね……。俺の弟――」
「別に。割り切ってるから、何言われても会社で猫被ってんだけど。俺は金さえ入ればいいし」
そうは言うが、陽翔にも似たことがあったから、なんとなく堀川の気持ちは推察する。
「恰好よくて仕事までできると大変だよね……」
「それ、本気で言ってんの?」
「本気って、だから俺は嘘は言えないって」
嫌味だと思われていたら心外だった。そもそも堀川をやっかむ気持ちなんて結翔には一ミリだってない。苦手だとは思っていたが。
「……何でもいいか。お前が俺がバイだって黙ってるなら、俺もお前の厄介そうな体質は黙っててやるよ。まあ、話す相手もいねぇけど」
堀川は軽く肩を竦めてそう言った。
「え……」
結翔にとって願ってもいない提案だ。体質のことが知れたら、気持ち悪がられて仕事を続けられないかもしれない。
「待って。堀川はなんで気にしないの……? 俺、変態じゃない?」
「んなこと言ったら、そいつのちんこ擦って抜いてやった俺はどうなんの?」
どう……善い人としか思えないが、どうなのだろう。
ぽかんとする結翔に苦笑し、堀川は終電がなくなる前にとあっさり帰っていった。
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