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給湯室
志田を見送ったあと、堀川に給湯室へ呼び出された。
「客によってはクレームもんだった」
「ごめん……」
「あれだけ真っ向から接客してたら、そりゃ成約も逃すだろうな。ここはホストクラブじゃないって、客相手に説教したようなもんだし」
堀川はそう言うが、結翔だって、思ったことをいつでも言葉にするわけじゃない。
嘘をつけない体質と、客にかけたい言葉の間で悩んで、結局愛想笑いで済ませてしまい客を不快にさせたことがほとんどだ。
「今日はなんというか、言わなきゃと思っちゃって……ごめん」
「でもまあ、そのおかげで俺が助けられたのは事実っつーか。なーんで草薙が成約件数0を叩き出してんのかわかってよかったよ」
「いや、今日のはつい言っちゃっただけで……」
困惑する結翔の髪を、堀川が楽しそうに撫でてくる。その顔がどこか照れくさそうで、見たことのない笑顔に思わずキュンとした。
――堀川相手にキュンって……。
志田に感情移入しすぎたかもしれない。
「草薙、今日の礼に晩飯どうだ? 奢る」
「お礼って、そんないいよ。何もしてないし」
「つっても、肉じゃがコロッケ限定だけど」
「なんでそんなピンポイントで……。別に付き合うけど、好きな居酒屋でもあるの?」
「うち」
「え? うち……堀川の家?」
「そ。今晩は草薙と食いたいのに、家帰んないといけないからさ」
「堀川の、家……?」
結翔が目を瞬かせていると、堀川はしれっと「片道一時間かかるから、今日は残業すんなよ」と言ってのけた。
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