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「ごめん、待たせた? 行こうか」
そう言って私は歩き始めた。
繁華街を抜けて人通りが少なくなったところで瑞樹はタクシーを止めて乗り込み、そのまま家に帰った。
家に帰っても瑞樹は黙ったままだ。お腹がいっぱいで眠いのだろうか。
化粧を落とすと瑞樹はお風呂に入り、私は今日買ったビジネス本、ではなく小説を読んでいた。
人間とはなんと弱い生き物なんだろう。
夏休みに期限があると分かりながらも夏休みの宿題を後回しにする小学生のように、失業給付金の支払われる日数が決められていることを知りながら、転職に役立つ勉強を後回しにする。
ああ、人間とはなんと哀れなのだろう。
小説を読みながら自分の現状と照らし合わせて一人反省し始めたところで瑞樹が戻って来た。
「お風呂入るか?」
「う~ん、キリのいい所まで読んだら入る」
瑞樹は珍しくソファーに座る私の隣に座って来た。
「あ、ごめん。邪魔だった?」
自分の部屋で読もうと私がソファーから腰を浮かせると瑞樹は私の腕を掴んで制止させた。
「いい。キリのいい所まで読んだら話がある」
珍しく真剣な表情を見せる瑞樹に私は本を読むのをやめた。
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