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安心の温もりと香り
翌日、言われた通りに瑞樹を起こし、現在私は田中さんという瑞樹のマネージャーが運転する車に乗っている。
田中さんは私が乗車すると苦笑いで尋ねてきた。
「番犬さん?」
私の名前は番犬で通っているらしい。
「初めまして、須田屋千佳です」
「初めまして田中稔です」
田中さんは清潔な七三頭にメガネといった風貌で文学の最高峰男子のような真面目さを醸し出している。年は私よりも上のようだが、その落ち着きようも相まって、芸能界というよりもお堅い場所で働いているというイメージだ。
自己紹介が終り、車が発信して10分ほどの沈黙が続いたが、赤信号で車が止まると田中さんは居ても立ってもいられないといった感じで後ろを向いて話を始めた。
「瑞樹君、女性じゃないか。住み込みって言ってたよね?」
さっきまでの落ち着きようは嘘みたいに慌てている。
「そうだ」
「意味分かってる? 色々困るんだよ」
「なんで困るんだ」
「だって女性と一緒に住んでいるなんて」
「変な妄想するな」
「あの、私は本当に家事全般と目覚まし時計みたいなもんなので」
「千佳の目覚ましは絶対に起きられる」
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